中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

「田州土司瓦氏女将の双刀で槍を降す法」など

まとまりのない感じになっているけれど、色々整理がついていない点も含めて、とりあえずの備忘録・頭の体操として。 ******** 少し前にSNSで、倭寇と戦う明軍兵士が双刀をもっている画像が流れてきた。 www.facebook.com その後、地元の図書館に行って、この…

倭寇期の「客兵」について

馬明達「抗倭英雄瓦氏夫人」(『説剣論叢』所収)は、瓦氏夫人の武功の代名詞である双刀を謳った呉殳『手臂録』「双刀歌」につづいて、 「嘉靖六年(1527)、瓦氏の夫、岑猛と子どもの岑邦彦が相次いで死去し・・・」と書いてある。 あまりにもさらっとした…

馬場毅『近代中国華北民衆と紅槍会』

前からずっと読みたいと思っていた本の古本がお手頃価格で入手できたので、年末をはさんで読んでみた。 筆者によれば「紅槍会」の語には、「一つは、文字通り赤い房(紅纓)のついた槍を持ち「刀槍不入」の信念で団結した秘密結社を指す狭義の意味」と「当時…

「洋人大力士」たち2

SNSで、王子平と北京の中央公園で戦ったとされる「康泰尔(爾)」に関する写真が、日本で「発見」された、という記事が流れてきた。 Mantis Boxing and Staff Combat: Chongdetang (Чундэтан) 記事によれば発見者はF.Kuvasovという人で、彼が発見したという…

競技と伝統 競技ルール改訂のための検討会(2020.12.10-12.12)

2020年12月10日から12日まで、武術運動管理中心は全国から11名の優秀審判員(具体的な名前は記事には出ていない)を招いて、套路競技のルール修正・改善のための検討会を開催した。 www.wushu.com.cn 3日間の討論を経て専門家たちは、 「動作の完成」と「功…

『鏢門 Great Protector』、『捻軍と華北社会』など

チャンネル銀河で10月9日から12月1日まで放送されていた、中国ドラマ『鏢門』。 公式サイトによれば中国では「圧倒的高評価」を得たとのこと。このブログ的には、『逝去的武林』の徐浩峰(注1)が脚本で参加しているということもあって、見てみた。 www.ch-gi…

『中国伝道四五年 ティモシー・リチャード回想録』

たまたま地元の図書館で手に取った本。 en.wikipedia.org 以下は、飢餓救済のためにリチャードが山西にいたころの出来事。 ある日、儒教の書院の院長が私のところにやって来て、「われわれの古典のなかには、体の組織の破壊を食い止め、結果として動物の冬眠…

R.F.ジョンストン『紫禁城の黄昏』など

約1年前に入手した『完訳版 紫禁城の黄昏』、買ってすぐに読まずにいるうちに、関心が別の問題に移ってしまい、しばらく置いておいたままにしていたのをようやく読み終えた。 直接的には武術と関係ない本なので、武術について言及されている箇所もあまりな…

渋川玄耳『岱嶗雑記』など

明治のジャーナリスト・渋川玄耳の『岱嶗雑記』には、馬良の中華新武術について触れた個所がある。馬良は確かに書家としても有名だけれど、「妙な風の字を自慢に書く」と評しているのが面白い。 ※以下の引用はすべて現代表記に適宜改めた。 済南鎮守使馬良は…

丁汝昌提督の死・・・からの頭の体操

張作霖の軍事顧問を務めた町野武馬の父・町野主水を主人公にした小説『その名は町野主水』を地元の図書館で借りたついでに、同じ著者の『侍たちの海─小説 伊東祐亨』を読んでみた。 北洋艦隊の丁汝昌提督への降伏勧告と、丁提督の自決のエピソードは、なかな…

山左聊城鈺山馬永勝とその周辺 老衆成鏢局、南強武術会、呉県国術館など

以前にメモしたけれど、中央国術館の張館長(このときはまだ「館長」という肩書はないので、「理事」と呼ぶべきか)は、国術館(研究館)の設立後まもない1928年の6月に西北軍以来の随員や、王子平らを引き連れて蘇州青年会の招きで蘇州を訪れ講演と演武を行…

暴虎馮河の勇 など

加来耕三『大警視 川路利良―幕末・明治を駆け抜けた巨人』(注)をたまたま地元の図書館で見つけて読んでみた。この本の中で、川路良利の受けた伝統的な薩摩の教育のなかで、「いろは歌」「歴代歌」「虎狩物語」など、藩が選定した歌や物語を暗唱した、と書…

ベルリンオリンピックの国術代表団(代表選考その他)

ベルリンオリンピック(1936)の国術代表団の選抜過程について、その後新たにわかったこと。 いろいろ脱線したり、詰込みすぎの感もあるけれど、そもそもが備忘録、雑記帳なので気にしないでおく。 1934年の10月には、早くも選考基準らしきものが発表されて…

馬良「振災武術団」(1921)など

アジア歴史資料センターの公文書より寺西秀武「青島に於ける張樹元と馬良」(大正十年五月二十六日付の、「九江ヨリ南京ニ下航中(第一報)」の一部) 「小生去ル四月二日青島二着シ張樹元ト同宿シ四回張馬両人ト密談ヲ交ヘタリ 右両者ハ表面何等野心無キカ…

佐倉孫三「拳闘」(『臺風雜記』(1903)所収)など

佐倉孫三は二松学舎の三島中洲の門人。警察関係のキャリアを積みつつ、言論家としても活動していた。台湾に二回(1895~1898、1912~1915)、福建(1904~1910)に一回赴任しており(注1)、『臺風雜記』は1895年~1898年の最初の台湾駐在中の見聞を漢文で記…

「洮南県下に於ける侠義者(侠客)調」 大正四年六月末

アジア歴史資料センターのデータベースから、本当に偶然見つけた、マル秘と印の押された史料。洮南(清朝時代は洮南府、中華民国では洮南県、現在は白城市の県級市(注)。 〇「洮南県下に於ける侠義者(侠客)調」 出典:「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref…

多賀宗之「支那の武技」(『赤裸の支那』(1932)所収)

たまたま発見した史料。 多賀宗之は1902年から1908年まで8年にわたって保定軍官学校の教官を務め、清朝滅亡後は川島浪速らの満蒙独立運動にかかわるが、当初、この動きを黙認していた政府の方針が一転すると、「蒙古挙兵計画は、実際には参謀本部・外務省な…

『秘密社会と国家』(神奈川大学人文学研究叢書)

中古本をアマゾンで300円足らずで購入。 秘密社会と国家 (神奈川大学人文学研究叢書) 作者:小林 一美,馬場 毅,大里 浩秋,孫 江,並木 頼寿 出版社/メーカー: 勁草書房 発売日: 1995/04 メディア: 単行本 8名の論者の論文(うち5つは中国に関するもの)と、冒…

張仲忱 岩井茂樹訳・注『最後の宦官 小徳張』など

前回のメモに引き続き、時代的には孫耀庭より一世代前の宦官・小徳張こと張祥斎についての本から。 張祥斎も、前回メモした孫耀庭のように、宮廷で芝居の訓練をしており、慈禧太后(西太后)の芝居好きによってその眼にとまり、出世の足掛かりを得る。 張祥…

賈英華著 林芳訳『最後の宦官秘聞』

満州国でも溥儀に仕えた宦官の孫耀庭に作家の賈英華が取材してまとめた本。 孫耀庭については、これとは別に、凌海成による伝記小説もあるけれど、こちらは入手したのみで未読。伝記小説によくあることだけれど、かなり脚色して膨らまされている印象がする。…

佐藤忠男『キネマと砲聲 日中映画前史』

以前にメモした、川喜多大治郎大尉がスパイ容疑で射殺された事件について興味をもって調べているうちに辿りついた本。川喜多大尉の事件については、石川忠雄の論文によりながら、冒頭に一章を割いて触れられていた。 それ自体についてはとくに新しい情報は得…

『ホテル・ムンバイ』、ブルース・リーのルーツなど

先日休みの日に映画でも観るかという話になり、それなら、ということでブルース・リーの描かれ方が物議を醸したクエンティン・タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を観たかったのだけれど、残念ながら時間があわなかった。それ…

満洲国皇帝陛下御一行(1935)

国立公文書館に保存されている、昭和10年の溥儀来日時の資料がアジア歴史資料センターのサイトに公開されおり、団員リストの中に「霍慶雲」の名前があることを確認した。肩書きは「宮内府従士」だった。 出典:満洲国皇帝陛下御来訪に関する件 (全7ページ…

李際春

この春の塘沽停戦協定以来、 冀東地区ではたえず関東軍の挑発工作がつづけられた。まず土匪の李際春がいく千かの手兵をひっさげて親満義勇軍の旗を掲げ、灤東地区で挙兵した。灤東地区とは鮎のとれる灤河から山海関までの間である。つづいて匪賊の老耗子が挙…

較場口事件(1946)

重慶では、各団体と市民が、2 月 10 日に同市の較場口で、〈重慶各界の政協会議の成功を祝う大会〉を行った。実際は、この大会開催の責任者は民主同盟中央委員李公樸(後に昆明で国民党の特務に暗殺された)である。同大会の宣言である〈全国人民に告げる書…

景梅九著 大高巖・波多野太郎訳『留日回顧 一中国アナキストの半生』

先日、某駅で人と待ち合わせをした際に、待ち合わせ時間より少し早くついたので、近所にあった古本屋に入って見つけた本。 ぱらぱらとめくっていたら、以前にメモした井勿幕、という名前が何度かでてくるのに目がとまったので、とりあえず読んで見た。 ○井勿…

馮驥才『三寸金蓮』など

馮驥才が 天津の市井を題材にした「怪世奇談」三部作のうち、未読だった『纏足(原題は『三寸金蓮』)』を読んでみた。 纏足を愛で、纏足についての薀蓄(「蓮学」)を競いあう男たち、そんな男たちや、同性の女性たちの視線を気にする纏足の当事者である女…

万楽剛『張之江将軍伝』など

たまたま見つけた張之江館長の伝記のキンドル版を読んでみた。 〇張之江将軍伝。English Edition と書いてあるけれど、実際には中国語簡体字。 ?之江将?? (English Edition) 作者: 万?? 出版社/メーカー: ??出版社 発売日: 2015/05/01 メディア: Kindle版 こ…

口述記録と創作 『義和団民話集』など

一つ前のメモに、曹錕の部隊に苗刀を伝えた静海県の四人の武術家がでてきたけれど、ここは天津の義和団の首領として知られる張徳成、曹福田の出身地でもある。 張徳成は、松岡圭祐の小説『黄砂の進撃』の主人公にもなっていて、東洋文庫所収の『義和団民話集…

曹錕とその周辺

慈禧太后(西太后)の寵愛を受けていた太監の安徳海が失脚した事件に関係して、周長春ら南皮出身の武術家があやうく巻き添えを食いそうになったことを以前にメモしたけれど、この事件のことをもう少し精しく知りたくて政協南皮委員会編著『南皮 千年文化古県…