中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

『中国武術全史』編纂プロジェクト

掲題のプロジェクトが立ち上がり、5月11日と12日、瀋陽で会議が開催されたらしい。あまり精しい情報が流れていないものの、プロジェクトのトップ(主編)は康戈武氏であること、同会議には上海体育学院や瀋陽体育学院、河南大学等、10余所の高等教育機関か…

『籌海圖編』、備前刀など

4月のはじめに通勤電車の中で読んでいた本で、明代の『籌海圖編』(注)に、日本刀の名品について記された箇所があると出ていたので、その晩、家に帰って、インターネットで調べたら、巻二に「上庫刀」と「備前刀」について記された箇所を見つけた。 それで…

斫削と粘槍 呉殳「単刀図説」の技法についての頭の体操

林伯原先生の『中国武術史』の中に、程宗猷(冲斗)の『単刀法選』と呉殳の『手臂録』巻之三「単刀図説」(以下、「単刀図説」)の各勢を比較した表がある。その中で、例えば、『単刀法選』の「入洞刀勢」と「単刀図説」の「入洞勢」は「勢名は類似するが外…

フォローアップ系の小ネタ

フォローアップ系の小ネタ数件。 1. 蘭州で「通備武芸文化伝承培訓中心」が設立されたという。以下に、二つ、関連動画ニュースを貼り付け。一つ目のニュースの中で、同種の組織としては蘭州ではじめて設立されたものと紹介されているけれど、2012年に開催さ…

気になる武術映画

伝統武術に題材をとった映画二本の製作についての情報が流れてきた。 一つは査拳についてのもので、日中戦争の頃の、馬忠啓という老師の伝記映画のよう。タイトルはそのものずばり『査拳』らしい。 www.qqgfw.com 馬忠啓という人についてはあまり詳しい情報…

杉山祐之『覇王と革命』など

昨年末のメモで、軍閥抗争時代に嵩山少林寺に火が放たれてことに関して、当事者といえる石友三や樊鐘秀などについて調べた際、これは軍閥時代のことを一通り学びなおさないといけないと感じたので、地元の図書館にあった『覇王と革命』を読んでみた。 この本…

流寇と土寇、郷兵守備、民壮など

タイトルに惹かれて中古本を買ったまま読めずにいたハードカバーの吉尾寛『明末の流賊反乱と地域社会』を、年末年始の休みを利用して読んでみた。 www.kyuko.asia ちょうど、明末清初を題材にした、小説(金庸『碧血剣』 )を読んだり、映画(『白髪妖魔伝』…

現代「武術学」の立役者

1月5日、徐才氏がなくなった。中国武術に興味をもって、内山書店や東方書店に足を運ぶようになった80年代後半ごろ、大陸で出版された書籍の多くには徐才氏の序文があった。 その多くは、『徐才武術文集』にまとめられているはずだけれど、長いこと押入れの…

ロバート・ビッカーズ『上海租界興亡史 イギリス人警察官が見た上海下層移民社会』など

ロバート・ビッカーズ『上海租界興亡史 イギリス人警察官が見た上海下層移民社会』は、新年早々、調べたいことがあって行った地元の図書館でたまたま見つけた本だけれど、第一次世界大戦でフランス戦線に参加し、除隊後、上海に赴任したモーリス・ティンクラ…

莫言『白檀の刑』など

義和団事件を扱った、いくつかのフィクション・ノンフィクション(籠城戦のあった北京以外の状況を描いたものを含む 注1)を読み漁っているうちにこの小説にたどり着いた。 莫言の小説としては、このブログを始めるだいぶ前に読んだ『豊乳肥臀』に続けて二冊…

金庸『碧血剣』、小前亮『李巌と李自成』など

追悼記念で、金庸の『碧血剣』を読んだ。 金庸の小説の中では比較的短編だけれど、主人公の武術修行、武林流派の確執、美男美女の複雑な人間模様、正義と悪が入れ替わるところなど、金庸小説のエッセンスは詰まっていて、自分としては充分に楽しめた。 碧血…

中国体操学校、清末の日本人教習など

前回のメモの後半で少し触れた呉志青については、最近、別途入手した『明清徽州武術研究』にも、同地方出身の代表的武術家ということで詳しく紹介されていた。 その内容は、例によって『中国武術人名事典』の記述と一致しないところもあるのだけれど、上海の…

訃報 金庸、レイモンド・チョウ

中国武術そのものとは関係ないかもしれないけれど、中国武術やそれに結びついた文化を世界に広めるのに貢献したと思われる人物が二人、相次いでこの世を去った。 一人は武侠小説家の金庸。 10月30日に亡くなった。享年94歳。 news.dwnews.com 金庸については…

馮驥才『神鞭』『鷹拳』など

掲題の小説の日本語訳が古本で安く手に入ったので読んでみた。 〇『神鞭』井口晃 湯山トミ子訳 北京外文出版社 ------- 『神鞭』は天津の市井を題材にした「怪世奇談」三部作の一つで、のこる『陰陽八卦』、『三寸金蓮』(文庫版では『纏足』と改題)も邦訳…

井上靖「壷」、全国武術運動会の新種目など(フォローアップ系小ネタ)

いくつか、過去のメモとの関係がありそうなフォローアップ系の小ネタをまとめてメモ。 1.井上靖「壷」 老舎の短編「断魂槍」との関連で、老舎が来日した際に語った話をもとに井上靖が書いたエッセイ「壺」をずっと読みたいと思っていたのだけれど、まさに灯…

邱海洋「电影《师父》:徐浩峰对师徒制的批判」など

全日本剣道連盟居合道部の昇段審査の金銭授受問題に関して、スポーツ人類学の田辺元氏の書いた文章が興味深かった。 synodos.jp この文章をヒントに中国武術のことを考えてみたときに、 中国武術において「入門」とは、ある学習者が、身内のもの、すなわち門…

少林寺の中華人民共和国国旗掲揚 など

嵩山少林寺で中華人民共和国の国旗が掲げられたというニュースが流れてきた。 news.sina.com.cn 出典:继河南少林寺之后 湖南开福寺举行升国旗仪式_网易新闻 日本でも、NHKなどでさっそく報道されている。 www3.nhk.or.jp このような事態は少林寺の創建以来…

「パス回し」からの頭の体操

サッカーのロシア・ワールドカップで日本がとった、パス回しの作戦に関連して、為水大氏のコラムが面白かった。 www.nikkansports.com 氏のコラムのポイントは、以下の三点。 (1)W杯はエンターテインメントか勝負か (2)ルールにないことはどの程度ま…

自貢の塩、杜心五、藤黒子など

清代から盛んになる四川省における塩田開発のことを以前にメモしたけれど、杜心五の伝記(賀懋華『大侠杜心五伝奇』)を読んでいたら、彼が最初に保鏢を務めるのは、九溪の富商・郝剣鳴が四川省に私塩の買い付けにゆく際に依頼を受けてのことだと書かれてい…

清代の人口増加の武術への影響 過去メモから

以前にもメモしたけれど、陳舜臣の小説『阿片戦争』にはイギリスとの戦争に備えて組織された自警団やそれを指導する武術家が登場するけれど、自警団が組織されるのはイギリスとの対抗というよりも、急激な人口増加と流動人口の増加による治安の悪化に対処す…

『中原の虹』など

浅田次郎の『蒼穹の昴』シリーズの『珍妃の井戸』と『中原の虹』をGW前後に読了。 この本では袁世凱が太極拳をやっている場面があったり、袁世凱暗殺を狙う刺客が武芸百般の達人という設定になっていたり(第五章に出てくる慶寛)、張作霖の拠点の新民府の舞…

蔡李仏拳博物館など

3月のはじめに広東省江門市の政治協商会議の一行が市内の蔡李仏拳博物館を視察したという記事を見かけて、そんな博物館があったのかと思って調べてみた。 市政协专题视察蔡李佛拳博物馆 传承弘扬侨乡武术文化精髓-政务要闻-江门市人民政府门 2001年の秋に蔡…

『ジャック・イジドアの告白』、『グレートウォール』、『桃源郷』など

『ブレードランナー2049』の公開にあわせて、2017年の暮れに、フィリップ・K・ディックの小説がいくつか新たに出版されていたらしく、地元の図書館の蔵書がいつのまにか増えていた。『ジャック・イジドアの告白』もそのひとつ。(『戦争が終わり、世界の終わ…

三田村泰助『宦官 側近政治の構造』

新しい本ではないけれど、地元の図書館の蔵書にあったのを読んでみた。 宦官にまつわるさまざまな内容のほかに、恐妻家、男色、強精剤といった内容が含まれていて面白かった。 以下、このブログの観点から興味深かったについてメモ。 1.恐妻家戚継光 映画『…

ベルリンオリンピックの国術代表団4 幻の山東代表? など

山東国術館について紹介した記事を見ていて、以下のような記述があるのに眼がとまった。 …据张香圃(济南太乙门传承人)回忆:(1985年《少林武术》第三期记载)1936年林秉礼、佟顺禄、张香圃、马洪智、赵玉庭五名山东选手被选拔为参加第十一届奥运会的“世运…

大陸浪人、日本人馬賊、革命派、精武会とボクシング・柔道など 

同じ時代のことだから当たり前といえば当たり前だけれど、いろいろ関心をもっていることがなんとなく繋がってきた。それぞれ掘り下げてゆければ大きなテーマに発展する可能性があるものの、とりあえずのところ連想ゲーム的にメモ。 1. 日本人馬賊-小日向白…

『Return of Bruce』、『Legend of the Condor Heroes』など

ブルース・リーが生きていれば77歳の誕生日を迎える11月27日前後に、「そっくりさん」主演の映画を含めて、いろんな情報が流れてきた。 なかでも印象に残ったのは、ブルース・リ(呂小龍)のReturn of Bruce (『忠烈精武門』) 出典:Rare Kung Fu Movie Web…

峨眉派趙門と太祖拳、営口の起順鏢局、綏遠の得勝鏢局など

1.紅拳、「峨眉派趙門」、太祖拳 少し前に『全球成功夫網』に載っていた安徽省蚌埠の太祖拳についての記事が面白かった。 www.qqgfw.com 说起太祖拳,其实是精湛的拳种,属“红拳”,拳术套路和器械套较多,由于传承甚少,为知不多,究其原因还是宣传交流不够…

橋本力、闞文聡、『刀背蔵身』など

ちょっと小ネタが集まったので、まとめてメモ。 1. 『ドラゴン怒りの鉄拳』のクライマックスでブルース・リーと戦い、かつ『大魔神』の(わけのわからない日本語だ(笑))橋本力氏が10月11日に逝去された。 『大魔神』三部作は、ブルーレイプレーヤーを買っ…

套路という文化 套路運動の生命力

ネットで調べものをしていて、晩年の蔡龍雲が套路運動について語った動画を見つけた。2014年10月、上海体育学院における講座らしい。ということは、お亡くなりになる約1年前だと思われるけれど、ときどき立ちあがって実演してみせる動作や、ウィットに富んだ…