中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

飯沼賢司『八幡神とは何か』など

倭寇船が八幡大菩薩の旗を掲げていたことと、のちに中国において、八翻、八番を名前に含む武術が生まれてくるのは、なにか関係があるのか、あると考えた方が面白いのではないか、と思っていたところ、たまたま図書館で飯沼賢司『八幡神とは何か』が目に留ま…

眞神博『ヘーシンクを育てた男』

アントン・へーシンクを育てた柔道家・道上伯の伝記。中国武術と直接の関係はないけれど、道上は1940年から1945年まで上海におり、東亜同文書院で柔道を教えていたということをこの本で知った。東亜同文書院柔道部は内地をはじめ、満州国などでも試合に参加…

『Iron and Silk』

『American Shaolin』について、アメリカの友人に読んだことがあるかたずねてみたら、感想とあわせて、こういう本もあるよ、ということで教えてもらったのが『Iron and Silk』。作者のMark Salzmanが1982年から1984年に英語教師として長沙に滞在し、潘清福か…

柔道対摔跤の御前試合?

常東昇のお孫さんが台湾における摔跤の現状を語るインタビュー記事を見たのがきっかけて、摔跤について検索していたら、たまたま『済南回族武術』という冊子のテキストファイルにたどり着いた。 この冊子は、「済南市伊斯蘭教協会が発行を続けている雑誌『済…

『少林很忙』

米国人、マシュー・ポリーの書いた『American Shaolin』の中国語訳が『少林很忙』として中国国内で出版されて物議を醸しており、少林寺が声明を出したという新華網の記事。少林寺は、マシュー・ポリーは混同しているが、「少林寺」や「武僧」を語る武術館、…

張雪蓮『仏山精武体育会』

精武体育会の仏山分会について紹介した本。著者の張雪蓮については、詳しいプロフィールがなく、よくわからない。 『嶺南文化知識書系』叢書の一冊という位置づけからなのか、仏山精武会に限らず、精武会組織の成立や発展における、広東省出身の人々の果たし…

吉燦忠『同興公鏢局考』

山西省の平遥(晋中市平遥県)にあった「同興公鏢局」に関する研究書で、昨年、北京で購入していたもの。最近、関羽やら水滸伝に関する本を読んで、山西省周辺のことが気になってみたので読んでみた。 「同興公鏢局」は1855年に設立され、1913年に活動を終え…

林建華『福建武術史』

アモイ大学の林建華教授が、アモイ大学出版社から『福建武術史』を出版したという記事。「網易」の記事がグーグル経由で今日流れてきたのだけれど、この本自体は、去年の8月に出版されているらしい。なぜ、今になってニュースとして流れたきたのかは不明。 …

高島俊男『水滸伝の世界』

『関羽 神になった「三国志」の英雄』を地元の図書館に借りにいったとき、たまたま目に留まったので、あわせて読んでみた。 この本の中で、水滸伝の好漢たちの活躍の舞台は、次第に太行山(河北)から梁山泊(山東)に移ってきているという指摘が面白かった…

渡邉義浩『関羽 神になった「三国志」の英雄』

関羽信仰の成立に関する研究。以前に読んだ宮崎市定の「毘沙門天信仰の東漸」は、唐・宋の頃に武神として流行した毘沙門天信仰が次第に廃れ、関羽信仰に置き換えられていった、と書かかれていたけれど、新たに注目された守護神がなぜ関羽であったのか、その…

蘇東披『石鐘山記』

蘇東披に、「石鐘山記」という一文がある。 原文はあとに示すとおり。全文を日本語に訳す力はないけれど、かいつまんで要点を記すと次のとおり(中国語の個人サイトでは、現代語訳が示されているものもあり、参考になる)。 - 『水経注』で、[麗+「おおざ…

岡本隆司『中国近代史』

筆者は、伝統的な中国における王朝と人民の関係、官僚制度の在り方について、以下のように述べる(以下、数か所を引用)。 財政のありようから見てとれるのは、中国では歴史的に、政府権力が必ずしも民間社会のすべてを掌握しておらず、必然的に権力のかかわ…

呉殳『無隠録』(人民体育出版社『中国古典武学秘籍録(下)』所収)

前にもメモしたとおり、悪戦苦闘しながら『手臂録』を読んでいる。巻二「戳法」では、各種の方法が紹介されているのだけれど、たとえば 抽抜槍:革圏が得意な相手に用いる。口伝あり。 とあり、それ以上の具体的なことが書かれていない。やっぱり大事なこと…

『馬振邦武学集 宗師伝記』

長年、陝西省武術隊の総教練を務め、「オールドスクール」のスーパースター・趙長軍らを育てあげたり、映画『武當』の南山道長をはじめ、役者・武術指導でも活躍し、昨年86歳で亡くなった馬振邦の伝記で、『馬振邦武学集』の第1巻。 (第2巻は『武学筆記』、…

『洛陽伽藍記』

図書館にあった本を読んでみた。この本のことは、武術史の教科書の中では、魏晋南北朝時代、洛陽のお寺の門前市で行なわれていた大道芸のことが取り上げられていて、名前は知っていたのだけれどちゃんと読んだことはなかった。気になったところをメモ。 3つ…

鳥跡

一念発起して、今年は中国武術の古典を少しずつでも読もうと思っている。 手始めに『手臂録』。テキストは人民体育出版社の『中国古典武学秘籍録(上)』。ほんの少しずつ読み進めていて、「一圏分形入用説」にたどり着いた。ここで、呉殳は槍の尖端が描く運…

陳舜臣の少林寺観

『珊瑚の枕』からの流れで、NHK大河ドラマの原作にもなった『琉球の風』を読んでみた。そうしたら、思いもかけず、少林寺に関する記述がでてきた。それほどの分量ではないので該当部分をメモ。『珊瑚の枕』(1982)から『琉球の風』(1992)まで、10年…

陳舜臣『珊瑚の枕』

数日前、古本屋でたまたま上巻を見つけ、その数か月前に購入済みだった下巻とあわせて読み始め、本日読了。陳元贇を主人公にしたこの小説については、高校生の頃、中国や中国武術に興味を持ち始めた頃から知っていたけれど、読んだことはなかった。ずっと気…

「大相撲に明日はあるのか」(内田樹『武道的思考』収録)

地元の図書館にあったというだけの理由で、あまり期待もせずに手にした『武道的思考』。内田氏のブログから編集者がピックアップしたということで、書籍にするのは正直どうなんだろうと思うような内容も含まれている気がしないでもないけれど、いくつかとて…

増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか?』

話題の本をようやく読了。 かなりのボリュームだけど、読み始めたら一気に読めてしまった。寝技中心の高専柔道のことは、以前に読んだ松原隆一郎『武道は教育でありうるか』にも書いてあったけれど、この本を読んでさらに理解が深まった気がする。そして、高…

張大為『武林掌故』

出張時に北京空港内の書店で購入。 作者の張大為は、呉斌楼のお弟子さんで、体育関係の新聞記者として70年代に北京を中心に多くの取材をされたようで、この本はそれをまとめたものらしい。(ただし、それぞれの内容がいつ、どのような媒体に発表されたのか、…

聶宜新編著『話説摔角与上海』

前半は、武術史の教科書にあるような「摔角」史のおさらいで、あまり新鮮味はなく、どちらかといえば退屈だったけれど、 後半から、上海における「摔角」の歴史が、関連団体や個人、トピックといった切り口から語られ、このあたりは面白かった。 それによる…

沼野充義編著『世界は文学でできている 対話で学ぶ〈世界文学〉連続講義』

やや脱線するけれど、地元の図書館にあったので読んでみた。 この本の中で、ウォルター・J・オングの『声の文化と文字の文化』(未見)によりながら、「第一次的な声の文化」(まったく書くことを知らない文化)と「書くことに深く影響されている文化」の間…

戚家拳

最近、汪国義、陳鐘華著『戚家拳』(湖南科学技術出版社)という本を入手した。 汪国義は、以前にメモした劉杞栄にも師事したことがあるらしいけれど、戚家拳自体の伝承経路についてはこの本の中では明確に記されていなかった。(ただし、斜め読みしただけな…

龔茂富『中国民間武術生存現状及伝播方式研究』

2013年4月に北京で購入(出版は2012年2月)。青城派武術の二つの伝承グループ、すなわち劉綏濱グループと何道君グループを対象に、その技術体系や収入・支出状況、青城山道教とのかかわりを具体的に記しつつ、武術行政における「体制外存在」としての民…

富坂聰『中国を毒にするも薬にするも日本次第』

中国武術の本ではないけれど、アマゾンのおすすめのリストに出てきて、レビューの評価もよかったので読んでみた。バランスのとれたよい本だと思う。 日本人は早く「中国ストレス」に慣れ、中国が国内問題に足を救われて没落することが日本の再浮上につながる…

李仲軒口述 徐皓峰整理『逝去的武林』

前回『倭寇的踪跡』についてメモしたとき、『逝去的武林』について触れ、一年ほど前に以下のメモをしていたことを思い出した。 ずっと「下書き」のまま放置していたけれど、これを機会に一部内容を見直して公開。 なお、徐氏は、徐浩峰が本名で徐皓峰はペン…

山田賢『中国の秘密結社』

以前メモした宮崎市定「毘沙門天信仰の東漸について」では、仏教が西域経由で中国に伝来する過程で、祆教(ゾロアスター教)と習合したことが、毘沙門天信仰を例に述べられていた。その毘沙門天信仰は、宋代に盛んになるも次第に廃れ、それにかわるように関…

小倉孝誠『“女らしさ”の文化史―性・モード・風俗』

地元の図書館にあったのを読んでみた。プロローグに、「身体の文化史を綴るにあたって、私は本書で、人類の半分を占める女性の身体(とりわけフランス女性の身体)について語ろうと思う」とあり、この本は筆者の、身体の文化史に関する論考の一部(半分?)…

緊那羅王はヘラクレスの末裔である?

宮崎市定「毘沙門天信仰の東漸について」(『中国文明論集』所収)は、毘沙門天の起源を、祆教(ゾロアスター教)のミトラ神ではないかという仮説を示していて、いろいろな意味で興味深かった。インドの仏教が中央アジアに入り、祆教と接触する過程で、仏教…