前にもメモしたとおり、悪戦苦闘しながら『手臂録』を読んでいる。
巻二「戳法」では、各種の方法が紹介されているのだけれど、たとえば
抽抜槍:革圏が得意な相手に用いる。口伝あり。
とあり、それ以上の具体的なことが書かれていない。
やっぱり大事なことは記録するのではなく口伝なのか、と思ってしばらく放置していたのだけれど、ふとした拍子に、同じ人民体育出版社『中国古典武学秘籍録』の下巻(『手臂録』は上巻)に、呉殳の『無隠録』があることに気づく。
「游場扎法」の項をみると、
抽抜:六七分目まで扎し入り、忽然と後退し、再び(扎し)入れば必ず中る。
などと出ている。
面白いと思ったのは「偸」。
『手臂録』では同じように
偸:革手(防御)が厳密な相手を破る。口伝がある。
とだけ書かれているのだけれど、
『無隠録』では
偸:会家は扎し難し。(ゆえに)我まず退意を示し、猛然と槍を発してこれを扎す、中るとも中らずとも、急ぎ跳び出す。
いいかえると、
達人相手には、有効な打撃を与えるのは難しい。だから逃げると見せかけておいて猛然と槍を発す。当たっても当たらなくてもすぐに逃げるべし。
というような意味になるだろう。
さすが『無隠録』というだけあって、包み隠すこと無く、本音で語っている感じがする。
それにしても、呉殳といえば、『手臂録』は有名だけれど、『無隠録』のことはあまり武術史の教材でも取り上げられていない気がするのはなぜなんだろう?
ちなみに、『中国古典武学秘籍録』に収録されているのは国家図書館の抄本を底本にしているらしい。