渡邉義浩『関羽 神になった「三国志」の英雄』
関羽信仰の成立に関する研究。
以前に読んだ宮崎市定の「毘沙門天信仰の東漸」は、唐・宋の頃に武神として流行した毘沙門天信仰が次第に廃れ、関羽信仰に置き換えられていった、と書かかれていたけれど、新たに注目された守護神がなぜ関羽であったのか、そのあたりのことは詳しく紹介されていなかった。
関羽は必ずしも武神というだけではなく、商売の神様としても有名だけれど、そのあたりも含めて関羽信仰の成立について紹介したこの本は(毘沙門天信仰との関係については触れられていないけれど)とても参考になった。
この本では宋代以降、関羽信仰が成立した理由として、以下の3つをあげている。
・北方民族の侵攻に対する国家の守護神としての期待の高まり
・山西商人による関羽信仰の本格化
関羽は、神格化されてゆくなかで、青龍偃月刀(冷豔鋸という銘をもつ)との結びつきを強めてゆく。これは、一つには、「五代・北宋以降に発展した新しい種類の武神」(P.167)である元帥神という考え方にもとづいて、特定の神格に特定の武器が配置されたらしい。(ただし、明清期に関羽の地位が高まると、地位の低い元帥神の枠の中には納まりきらなくなり、現在は四大元帥の中から関羽ははずれている。)
現在の三国志演義には含まれていないけれど、明の雑劇の中には、関羽が石の下からこの刀を手に入れる場面があったり、関羽の死を直接的に描かず、刀を返すことでその死去を象徴させる(嘉靖本第二版)など、エクスカリバーの聖剣信仰のように、武器そのものが霊性を帯びていることを示すものがあるという。
青龍偃月刀、中国武術的には、春秋大刀というほうが一般的だと思うけれど、実に多くの流派に取り入れられているように見える。これも関羽信仰とともに広がったのだろうか。
その関羽、「大漢の疆域、どうして妄りに寸土であっても、人に与えられるだろうか」(李卓吾本『三国志演義』第六十六回)といっており、領土問題については一歩も譲れないという立場のようだ。これは日本を含む周辺国にとっては難しい交渉相手かもしれない。
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とりあえずいくつか、春秋大刀の動画をメモ。
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