中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

現代「武術学」の立役者

1月5日、徐才氏がなくなった。
中国武術に興味をもって、内山書店や東方書店に足を運ぶようになった80年代後半ごろ、大陸で出版された書籍の多くには徐才氏の序文があった。

その多くは、『徐才武術文集』にまとめられているはずだけれど、長いこと押入れのなかに埋もれてしまって見つけることができない。この機会に再販されることを期待したい。


1986年に設立され、徐才が初代院長をつとめた武術研究院については、北京オリンピックのあと、2000年代になってからも、中国文化部傘下の「文化研究院」に専任の研究員がいるのと異なり、全員が別の業務との兼任で、研究組織としての実態が伴っていないという批判もあったけれど(いま、どのように運営されているのかは確認していない)、武術をテーマにした学術シンポジウムや論文集の出版など、この人の旗振りで、中国武術の面白さは確実に世界に発信されたのであって、自分は間違いなくその影響を受けた一人だと思う(注)。謹んでご冥福をお祈りしたい。

 

 

覚えている限り、1989年の冬に北京の郊外で開催された、北京アジア大会用の競技用規定套路の講習会のレセプションでお会いして、一緒に写真をとっていただいた。かすかな記憶の中では、流暢な日本語を話しておられたのだけれど、もしかしたら記憶ちがいかもしれない。

 

ところで、多くの記事で、享年93歳と報じているけれど、1926年1月生まれ・且つ享年が93歳だとすると、誕生日は亡くなった1月5日より前でなければならないはず。

他方、2014年の雑誌『中華武術』の記事では、「農暦腊八」が彼の88歳の誕生日であったという記事がある。2014年の農暦腊八は1月8日だから、1月8日が誕生日だとすれば、享年は92歳ではないのかなあ。たった3日の差ではあるけれど。

 徐才先生是新时期中国武术运动的开拓者之一,农历腊八是他的生日,每年这一天我们都要到徐府团聚,为老人家庆贺生日。今年正值徐才先生八十八岁华诞。

您依然那么精神矍铄——贺徐才先生八十八岁华诞-【维普官方网站】-www.cqvip.com-维普网

これ、計春華がなくなったときと同じような状況だけれど、日本人の感覚からするとアバウトすぎると思わざるをえない。

「禿鷹」計春華 - 中国武術雑記帳 by zigzagmax

 

(注)

ただ、80年代から90年代の大陸の中国武術は、国際化を視野にいれた競技としての整備が進むなかで、体育系教材等の教材に見られる武術の「定義」も、民族スポーツであるという「言いきり」がなされていた時期で、どちらかというと、スポーツに含まれない文化的要素の研究はあまり積極的に推進されなかったように思う。そのせいかどうかわからないけれど、90年代の武術運動論文集は、競技の現場の人たちが片手間に書いた感想文的なものも少なくない。中国武術の文化的側面についての再評価は、北京オリンピック後(オリンピックの競技種目化が政策的に最優先される影で、民間武術の体制整備は放置され、老武術家の̪死とともに多くの民間武術がこの世から消えていき、関係者がようやく危機感をつのらせる)まで待つ必要があったように理解している。