太極拳のユネスコの無形文化遺産登録
12月18日の朝、ネットニュースを見たら、太極拳がユネスコの無形文化遺産のリストにのった、というニュースが流れてきた。
無形文化遺産、中国的にいえば非物質文化遺産については、このブログをはじめた当初から、ユネスコを意識した国際的なものから、中国国内の国家級、省級、さらにその下の市級など、さまざまな登録の動きがあったので、タグも作って何度かメモしてきたけれど、ここ数年はあまり目立った動きはなかったような気がする。中国の経済成長の勢いが鈍ってきたので、逆に文化の保護などにまわす予算がなくなってきて、なんとなく尻すぼみになっていたのだろうか。
ただ、当時からよく言われていたように、急激な経済発展や都市化、長年に及ぶ一人っ子政策が後継者不足の原因だとしたら、経済成長の勢いが多少鈍ったからといって、伝統武術が消滅の危機を逃れたわけではないはずなので、太極拳がユネスコの非物質文化遺産のリストにのったことで、今後、伝統武術の「保護」をめぐる議論が再び盛り上がらないとも限らない。そうなったらそうなったで、これまでのさまざまなレベルでの非物質文化遺産認定は、伝統武術の保存・継承に効果があったのかなかったのか、現在、伝統武術は果たしてどういうことになっているのか、新たな情報がでてくることを望む。
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ところで、無形文化遺産条約というのは「世界の無形文化遺産はすべて平等の価値をもつという前提」にたち、「世界的に卓越したものであるというエリート主義的価値基準を採用しない」という前提でスタートした枠組みであり、その考え方は、逆にいえば、エリート主義的価値基準をもつ世界遺産条約とは根本的に異なっていたはず。
その精神が今でも生きており、かつ正しく認識されていれば、リストに載るというのはあくまでも「例示」の対象に加えられたにすぎないので、リストに載ったからすごいとか、すごくないとかいうことは何も意味しないのではないのか。
しかも、これは、基本的には「保護」のための枠組みであるはず。そもそも、世界にこれだけ広がっていて、オリンピックの競技種目化も狙っていると思われる太極拳(中国武術)に、どうして保護が必要なのか。このリストに載ったことは、太極拳の関係者としては本当に喜ぶべきことなのか(注)。
そのあたりのことがよくわからなかったので、改めていろいろと調べてみた。
無形文化遺産に関しては以下のサイトの記事がとてもわかりやすかった。
おかげで、登録対象やその「担い手」についての考え方、何をもって「保護」というのか、という点について、理解が深まった。
文章の一部を切り取るのは敢えて避けるけれど、このユネスコの枠組みは、誰が家元か、とか、誰が正統な継承者か、といったこととはいっさい関係がなく、その点では日本の「人間国宝」的な考え方や、代表的継承者を具体的に示す中国国内の非物資文化遺産の認定の考え方とはかなり異なっている。
そこは意見が分かれるところだとは思うし、自分などはどちらかといえばやはり権威を守る必要があるのではないかと思うけれど、少なくともユネスコの枠組みはこういう、開かれたものなのだから、単に日本の一愛好者に過ぎない自分なども、愛すべき文化の「継承者」の一人として、伝承を未来に繋げてゆく責任があるんだな、と思った。
このささやかな電子備忘録が自分なりの貢献の一部になるとすれば、それより嬉しいことはない。
(注)
オリンピックの競技種目化については、2024年にパリで開催されるオリンピックの新種目が最近発表されたけれど、そのなかには武術は入っていなかった。