フォローアップ系小ネタ 2019.12.22
見落としていて最近気づいた情報も含めて、いくつか気になった動きをメモ。
1.中国武術通史編纂プロジェクト
これは、半年くらい前にメモした「中国武術全史」プロジェクトとは違うのか?
印象としては、「通史」のプロジェクトは、半年前の「全史」プロジェクトの報道では関与の度合いがわからなかった北京体育大学の研究者たちが中心になっているように思われ、まったく別のプロジェクトのように思われる。
〇過去メモ
2.「体育強国建国要綱」
2019年9月に国務院が発表した上記の要綱の中で、武術についても一箇所触れられていた。
依然として、オリンピック競技種目化が国としての目標とされていることがわかる。
提升中国体育国际影响力。实施中华武术“走出去”战略,对标奥运会要求,完善规则、标准,力争武术项目早日进入奥运会。通过孔子学院和海外中国文化中心等平台,推动中国传统体育项目的国际化发展。拓展对外传播优势平台,加强与国际体育组织的交流合作,扩大我国在国际体育事务中的影响力和话语权。
武術の普及の経路として、孔子学院と中国文化センターが挙げてられているけれど、これらの組織はよくいって文化交流機関、わるくいってプロパガンダ機関であって、競技スポーツの普及とストレートに結びつかないような気も。孔子学院という経路を介することが武術の普及にとってネガティブな要素とならないことを祈る。
ちなみに、以下の報道によると、孔子学院は162カ国550箇所に。
ただし米国のように2月時点の110箇所から88箇所と急減しているところも。
以下は、ルワンダの孔子学院が最近行った武術活動についての記事。
3.「内家拳発源地」記念碑の序幕
とりあえずメモだけ。寧波は内家拳の重要な伝承地だと思われるけれど、「発源地」という言い方はどうなんだろう。
そういえば、温県にたてられた「太極拳発源地」の記念碑が太極拳の起源問題を再燃させたのは2007年。
〇関連の過去メモ
4.大運河武術連盟
「大運河武術文化連盟」自体は2年前にできていて、賽事も行われているので、今回の記事のポイントとしては、「杭州站」ができた、ということなのだろう。江南と北京を結ぶ大運河の周辺には、物資を運ぶ側・奪う側を含め、さまざまな集団がかかわっていたはずで、清代はとくに民間の物資の輸送を鏢局が担ったのに対し、政府の物資の輸送は、軍隊や専門の専門部署の役人たちが担ってきたものと思われる。
近年、江南の文化遺産として「船拳」などが話題になることがあるけれど、これなどはそういう観点から研究がすすめばとても面白いと思われるけれど、まだそのような文章は見たことがない。「大運河武術文化連盟」は、わざわざ「文化」という名前を冠しているので、そういった武術と社会を繋ぐ歴史を掘り起してくれる活動を期待したい。なお、酒井忠夫「中国幇会史の研究 青幇編」は武術研究の本ではないけれど、大運河の輸送人たちの互助組織の中から結社が生まれてくるのを考察したもので、鏢局についての一章もあり、とても興味深かった。
大運河武術文化連盟が行った賽事を報じる2017年の記事と動画
5.シラット、プンチャックシラットのユネスコ無形文化遺産登録
シラットは中国語では馬来武術。プンチャックシラットは印尼武術。
あまりちゃんとみたことがないので、どうちがうのか、全然わからないけれど、同じタイミングで登録されたのは、どっちかが先にならないような政治的な配慮があったんだろうか。
タイからは伝統的マッサージ(ヌアット・タイ)も登録されている。
かつて少林武術(少林功夫といわないといけないのかな)や太極拳を登録させるような動きもあった気がするけれど、どうなったんだろう。(東南アジアの武術がこういう枠組みに登録されてくると、オリンピックの競技種目化と同じで、若干中国の国としての面子がかかわってきて、事態を混乱させる気がする。個人的には、太極拳や少林功夫に関しては、ユネスコの枠組みによる「保護」は必要ないと思う。)