中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

黄河大侠

7月5日の深夜、フェイスブックのタイムラインに于承恵の訃報が流れてきた。
日本にブルース・リー、ジャッキー・チェンにつぐ第三次カンフーブームをもたらした映画『少林寺』で、仇役をつとめ、つづく『少林寺2』ではヒロインのお父さん役、『阿羅漢』では再びジェット・リーの仇役をつとめて、いつも存在感を発揮していたものの、この人の存在に目が釘付けになったのは、彼自身が主役をはり、ジェット・リー以外の『少林寺』のメンバーが脇を固めた、『黄河大侠』を近所のレンタルビデオ屋で見つけてからだった(于海も、最後の最後に、アクションのない和尚さん役で登場。主人公に進むべき道を示すという意味では重要な役回り)

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昔、北京で買った『黄河大侠』のVCDのパッケージ。 

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冒頭近く、計春華演じる柳将軍との氷河のうえでの死闘、中盤で守ってやっていたつもりの農民たちに「あんたたち、また戦をはじめるつもりなのか。なぜ放っておいてくれないんだ」と泥を投げつけられる場面、道場のお披露目でお調子者の弟子の車天が剣の道を語りはじめたのを「わが意を得たり」とにやりと笑うシーン、その車天の最後をみとるシーン、最後の黄河での決闘・・・この映画については何回見たことかわからない。大好きな映画だった。

以来、天壇公園で彼が双手剣を演じるシーンがはいったドキュメンタリーも入手したし、彼が傳青主を演じたドラマ版『セブンソード』、黄葯師を演じた2005年版『神雕侠侶』、イップマンを演じたドラマ『李小龍伝記』などもみてきた。いつも一定の存在感を示しているとはいえ、特別ゲスト的な扱いで、『黄河大侠』を超えるものには出会えなかった気もする。
  
武侠小説の作家にして映画監督の徐皓峰は彼のファンなのだろうか、『刀のアイデンティティー(倭寇的踪跡)』、『ジャッジ・アーチャー(箭士柳白猿)』で、ともに重要な役を演じさせていて、この二作は見ごたえがあった。(『ジャッジアーチャー』は会社を早退して映画館に見に行った。) この2作品では、声優さんではない彼の肉声が聞けるけれど、台詞まわしも、雰囲気があって魅力的だ。
いま、たまたま読んでいる彼の小説『武士会』の主人公の李尊吾(李存義がモデルになっている)も、白いあごひげを生やしていて、于承恵の風貌を思い浮かべるとぴったりすると思っていた。『武士会』については改めてメモしておくつもり。
 
謹んでご冥福をお祈りしたい。