氏家幹人『大江戸死体考』など
中国武術の本ではないけれど、掲題の本を古本屋でたまたま目にして、ぱらぱらとめくってみたら第2章が「様斬(ためしぎり)」というタイトルになっており、面白そうだったので買ってみた。
江戸時代になってまもなくは、将軍はじめ各国の領主も、自ら武器を手にして試し斬りをやっており、処刑などがあるとその遺体をもらいうけて自ら刀で切ったり、槍で突いたりしていたのが、平和な時代が続くと、次第にそういった作業を敬遠するようになり、専門職に武器を預けて切れあじを試させるようになってゆくらしい。その、切れ味の確認の仕方についての描写も凄かったけど、敢えて引用はしないでおく。
職業とはいえ、場合によっては生きたままの人を斬ったり、万が一にも傷つけてはならない将軍の差料を預かって使うのは相当のプレッシャーだったようで、無事に一仕事終えたあとは一門で夜通し飲み明かしたりすることが恒例になっていたというのも、さもありなんと思う。罪人が読む辞世の句をきちんと理解してやるために俳諧の教養を身につけていたことや、遺体から得られる肝臓などを薬に配合して副収入にしていることなども興味深かった。
ひるがえって、中国では、武器の性能(切れ味)の確認は、だれがどのような形でやっていたのか、ということは、あんまり考えたことがなかった。あまり突っ込んで調べる気にもならないけれど(そもそも、そんな史料どうやって見つけたらいいんだ?)、いくつか関連しそうなことを、このブログの観点からメモ程度に。
1.
たしか浅田次郎の『蒼穹の昴』の最初の方に、刀を使う死刑執行人みたいな職業の人が出てきたような気がしたので確認してみたら、確かに「刀子匠」という職業の人が描かれていた。でも死刑執行人というのは勘違いで、宦官になる人のためにアソコを切り落とす職業の人のことだった。
小説では、主人公の李春雲はお金がないので「刀子匠」をやとえず、自分で切り落とすという展開だったけれど、「刀子匠」という人々は確かにいたらしい。
関連するサイト。「北京宦官博物館」にあるという再現シーンが生々しい。
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そういえば、『嫁到宮里的男人』という映画は、後宮に連れていかれた恋人を連れ出すために自ら宦官になって宮廷にもぐりこむ男の物語で、あそこを切り落とすシーンなども象徴的にではあるけれど描かれていたような気がする。
この映画には紫禁城で皇帝の護衛の兵士たちが訓練するシーンがあって、北京体育大学(当時は学院)の武術専攻の学生たちがエキストラで演じている。
2.
中国の死刑執行人(劊子手)についても、以下のような記事を見たことがあった。
民国時代の最後の死刑執行人や、映画『グランドマスター』にでてくる元死刑執行人役の老姜が、猿を連れていることの理由(台湾の作家・唐諾の小説の登場人物にヒントを得ているらしい)などが紹介されている。
上記の記事でも取り上げられている、湖南省の最後の死刑執行人の鄧海山についての記事。
3.
清末、処刑された譚司同の遺体を大刀王五が回収、その王五が処刑されると今度はその首を霍元甲が回収して人知れず葬ったという話は、どこまで真実なのかよくわからない。特に王五の最後については(例によってというべきか)諸説あるらしい。
大江戸死体考―人斬り浅右衛門の時代 (平凡社新書 (016))
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