中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

武術賽事の管理強化、ジャック・マーの『功守道』、「峨眉武術発祥の地」など

11月4日に開かれた雲南省武術協会の全体委員拡大会で、胡宝林が全会一致で主席に選ばれたらしい。

胡宝林といえば、自分が武術を始めた頃の現役選手で、四川の任剛とならぶ通背拳の名手だった。ライバル任剛は四川省武術協会の主任としてさまざまなアイデアを打ち出しているけれど、胡宝林主席(トップ役職名は省によって違うのかな)の手腕やいかに。

雲南省將重拳出擊遏制武術界亂象-新華網雲南頻道

 

〇胡宝林

出典:沙国政武術館の公式ウェブサイトより 

 

会議では、8月に発表された国家体育総局の武術の賽事活動の監督管理強化に関する通知が周知された模様。雲南以外の各省でも同じような会議が開かれて、総局の通知を皆で「学習」しているんだろうか。

 

〇国家体育総局の通知

出典:體育總局下發文件 加強對武術賽事活動監督管理-體育新聞-新浪新聞中心

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おりしも、同じ11月4日に昆明で行なわれていた『武林風』の試合では、今年の3月以来、 武僧一龍の対戦相手を決めるために参加した8名の選手の中から勝ち上がったムエタイシティチャイ・シッソンピーノン(西提猜)と一龍の試合がついに実現するも、一龍は2ラウンドでKO負けしたことが話題になっている。そもそも『武林風』という河南衛視の番組のために作られた英雄の一龍とシティチャイ・シッソンピーノンではレベルが違いすぎるという声も聞こえてくる。(チェックしていなかったけれど、2015年6月に行われ、一龍が判定勝ちした、プアカーオ(播求)との一戦も大いに物議をかもしたらしい。詳細は以下の鳳凰週刊のオフィシャルブログに詳しい。)

 

blog.sina.com.cn

 

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 8月に発表された国家体育総局の通知は、上記のような賽事活動の監督管理強化という題目だけれど、民間において勝手に新しい流派を作ったり、「宗師」、「正宗」を名乗って大衆を欺いては行けない、といった内容も含まれている。この点について、以下の記事などを見ると、80年代の調査に基づいて、現在武術運動管理中心が認定している流派を129種類と紹介している。90年代にはいって木蘭拳に対して130番目の流派認定が行われているはずなのに、そのことに触れられていないのは、取材を受けた武術運動管理中心の「工作人員」も、裏をとらない記者も、プロとしていかがなものかと思う。(まさか、130番目の流派認定自体が、木蘭拳による宣伝だった、ということはないと思うけど・・・。)

 

www.sohu.com

 

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 ふと目を転じると、ちょうど昨日(11月11日)、アリババのジャック・マー主演のショートムービー「功守道」がネットで公開された。

v.youku.com

ジェット・リーは「功守道」はたんなる映画ではなくて、太極拳の発展形(太極推手が太極拳のバージョン2.0だとして、功守道はバージョン3.0だという言い方をしている)であり、大衆向きの種目として普及させ、最終的にはオリンピックの種目にしたいというようなことを述べている。

この作品を見ただけでは、いったい「功守道」がどんな競技なのかよくわからないけれど、こういう新しい競技として普及させようという動きというのは、管理強化を打ち出したばかりの武術運動管理中心の目にはどう映っているのだろう。「雷公太極」という流派を作るのはダメで、「功守道」を作るのはいいのだとしたら、両者の違いは何なのか。そのあたりは気になるところ。

  李连杰介绍,功守道是以中国传统武术太极为基础发展出来的一项全新的运动项目,“如果把推手看作太极的2.0版本,那么功守道就是在推手上再升级的3.0版本。”

   据悉,《功守道》电影推出之后,功守道赛事也将在11月亮相。

   李连杰说,他希望把功守道发展成一项体育产业,不仅有专业联赛,更成为一项全球普及的大众体育运动,最终成为奥运会的正式比赛项目。“

李连杰:终极梦想是中国太极进入奥运会——新华网——湖南

 

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ちょうど、このメモを描き終えようとしていたら、峨眉山の中峰寺で、「峨眉武術発祥の地」の石碑の除幕式が行われたという記事が流れてきた。

news.sina.com.tw

峨眉派武術の起源については、記事の中でも「峨眉武术究竟起源于哪里,多年以来在武术和文化领域说法不一。」と書かれているとおり、諸説がある状況だと思うけれど、この時期この碑が作られた背景についてはよくわからない。

こうした石碑やプレートに関しては、2007年、河南省温県陳家溝で『中国武術太極拳発源地』のプレートのお披露目が物議を醸したことと、嵩山少林寺に建てられた「世界詠春拳帰山記念碑」をめぐる騒動が記憶に新しい。これも、広い意味で、「正統派」をめぐる混乱が原因であると考えると、きちんと整理整頓してほしい気もする。

baike.baidu.com

 

以上、やや雑多にここ数日気になったニュースをメモ。