中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

「シンクロナイズド太極拳」?

SNSで、麗江で行われた競技の「双人南拳」という競技の動画が流れてきた。これが個人的には衝撃的だったので、調べてみたら双人競技は、南拳のほかに、太極拳もあり、youtubeなどには、2014年の競技の動画も出ている。

 

◎2014年の全国武術套路錦標賽における「双人太極拳」競技の動画

www.youtube.com

 

◎2016年の全国套路冠軍賽における「双人南拳」競技の動画

v.youku.com

 

国家体育運動総局のウェブサイトにある、「2016年全国武术套路冠军赛(传统项目赛区)竞赛规程」を見るとこれらの双人競技についての記述がある。双人競技は南拳太極拳で行われていて、南拳は「男女混合も可」であるのに対して、太極拳の場合は、そもそも男女混合で行うのが前提の競技のようだ。

内容面の規定はそれぞれ以下のとおりで、套路の中には、(1)規定の動作またはコンビネーション(南拳では2種類のコンビネーション、太極拳では8種類の動作を規定)、(2)対練、(3)難度動作、の3つの要素を含めなければならないとされている。

 

  1.内容规定:
  (1)双人南拳的内容规定
  运动员演练的套路必须包括指定的两个动作组合、南拳对练以及难度三方面内容。指定动作组合名称如下:
  ①弓步挂盖拳→退步格桥冲拳→横钉腿撑掌→骑龙步截桥→横踩腿拨掌
  ②半马步挑掌→半马步拨掌→左右关桥→独立步虎爪→麒麟步叠掌→弓步立推掌→麒麟步运掌→骑龙步横切掌
  (2)混合双人太极拳的内容规定
  运动员演练的套路必须包括规则对太极拳套路内容所规定的八个动作、以太极"八法"为主的太极拳对练和难度三方面内容。
  2.编排要求:
  (1)规定的八个太极拳动作和两个南拳动作组合必须整齐对称。
  (2)整个套路的难度由两人共同完成。两人必须同时选做至少两组"难度动作+连接动作",不许同时选做不同的"难度动作+连接动作"或"难度动作"。
  (3)整个套路既要展现运动员的个人技术,更要突出两人之间的呼应与配合。
  (4)套路完成时间:双人南拳套路不少于1分20秒种,混合双人太极拳套路为3~4分钟。

出典:2016年全国武术套路冠军赛(传统项目赛区)竞赛规程

 

 以上の記述につづけて、評価基準も書いてある。

 審判は二組に分かれていて、A組の審判が動作の規格をチェック、B組の審判が演技レベルをチェックすることになっていて、その中に二人の動作の一致度(「整斉度」)が含まれている。

 シンクロナイズドスイミングのように、動作が揃っているかどうかが評価のポイントになっていることがわかる。

 これらに加えて、難度動作についての評価が加わっている。

 

 一人でやっても高い身体能力が求められる技を二人で同時に完成させなければならないので、競技として参加選手に求められる要求はさらに高まっていることは理解できる。でもなあ・・・。難度のための難度、競技のための競技という気がしないでもない。

 日本で導入してほしいとは思わないけれど、導入するとしたら、「双人太極拳」、「双人南拳」よりも、「シンクロナイズド太極拳」とか「シンクロナイズド南拳」いう名前のほうがふさわしい気がする。

 いや、もう「拳」という語を使うのはやめて、いっそのこと「シンクロナイズドタイチ―」とかにしたらどうか。たぶん、この競技の支持層は、伝統的な太極拳支持層とは全く異なると思うので、まったく違うものとして打ち出しても何ら問題ない気がするし、そのほうが誠実なネーミングの気がする。

 

 麗江の競技は「伝統項目」のはずだけど、この競技を「伝統項目」に分類するという考え方も、ちょっと理解しがたい部分。確かに、「現代」長拳と比べるなら、太極拳南拳は、以前から存在していたという意味では伝統項目といえるのかな。

武術競技はどこに向かおうとしてるんだろうか。中国人の自由な発想には驚くばかり。