中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 ※2015年2月、はてなダイアリーより移行

CCTVドキュメンタリー『破譯達摩神功』、「健身気功・易筋経」など

「破譯達摩神功」は、youtubeで見つけた易筋経に関するCCTVのドキュメンタリー。国家体育運動総局の健身気功管理中心による、「健身気功・易筋経」の編纂・臨床試験(?)の過程なども紹介されていてなかなか興味深かった(注)。

 

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この番組では、少林武術そのものはインドから伝わった可能性があることを、インド駐在経験のあるスタッフの証言やインド武術の映像などをもとに紹介しつつ、易筋経そのものの成立については、唐豪の紫凝道人創始説によっているようなスタンスだった。(ただし、コメントしている周偉良教授は、著書の中では紫凝道人創始説にも疑問を呈していた気がする。)

 

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番組では、明清時期につくられたと思われる易筋経が少林寺と結び付けられたのは、同じ時期に「天下の武術、少林より出る」という少林武術の評判が広がったことと関係があるとしている。そして、近代の武侠小説が、この功法の秘伝的・神秘的イメージを高めるのにさらに拍車をかけた。番組では具体的な例として金庸の『天龍八部』(ドラマは見たけど、小説は未読)が紹介されているけれど、実際に読んだものとしては、梁羽生の『七剣下天山』にも「達磨易筋経」が出てきた。仲間とはぐれた韓志邦が洞窟でこれを見つけて、めきめきと武術の腕をあげるという設定で、達磨易筋経をめぐる騒動がサイドストーリーのようになっていた。

最近読んでいる『清代鏢局与山西武術』では清代に流行した鏢局の多くは少林武術の創始者として達磨を奉じており、そのことが、立場は正反対だけれども同じく武技によって生計をたてている盗匪たちとの間の共通点になり、同じ達磨を祖師とする武林の兄弟同士で無用な争い・流血の事態を避けるための一種の符号、共通言語として作用していたというような指摘(pp.57-58あたり)があって興味深かった。

そのように、鏢師と匪賊たちには、ある種の共謀関係が成立していたので、鏢局からは、輸送ルート上の匪賊の頭目に定期的に贈りものを届けたり、匪賊の頭目たちが都会にでてくるときには、都会で悪さを起こさないように衣食住の面倒をみたりもしていたという。

ところが、「江湖」の流儀の通じるこういったプロの匪賊たちが相手ではなく、食い詰めた農民などが大規模に反乱を起こすような情勢になると、もはや鏢局の出る幕ではないということが却って明らかになり、鏢局の没落を早めたというような指摘(pp.30-33)があってなるほどと思った。

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ちなみに、ツイ・ハークがプロデュースしたドラマ版『七剣下天山(セブンソード)』は、「映画『セブンソード』では語りきれなかった、七剣伝説がここにある」という宣伝文句だったけれど、ツイ・ハークが描きたかったことは、全40話のドラマでも描ききれなかったらしく、番組の最後の最後で華麗な(?)ヒールターンを果たす、天山派一番弟子の楚昭南が、天山派への復讐を誓って仲間たちのもとを去るところで、「七剣下天山 上部 終」というテロップと共に全40話が終わる。細かい設定は違うけれど、小説『七剣下天山』は、このドラマのクライマックスである銭塘江の戦いのあたりから話がはじまっている。(なので、ドラマの中での韓志邦はまだ易筋経を手に入れてパワーアップしておらず、優柔不断で弱いまま。)冒頭で天山派二番弟子の楊雲驄は戦死、四番弟子で凌未風と名を変えた(凌)穆郎と劉郁芳、楊雲驄の娘で親の敵討ちを狙う易蘭珠らを中心に物語が展開する。ドラマの「下部(後編)」が作られたという話はきかないけれど、小説はとても読み応えがあったので、傅青主役の于承恵が存命のうちに、「下部」を作ってほしかった気がする。

 

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七剣下天山〈上〉 (徳間文庫)

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ミシェル・ヨーの「レイン・オブ・アサシン」(『剣雨』)は易筋経とは関係ないけれど、達磨の遺体を手に入れたものが武林の覇権を握ることができるというお話だった。 

 

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(注)国家体育運動総局健身気功管理中心による健身気功・易筋経の各動作(全十二式)とその解説は、この動画が参考になる。貼り付けたのは総論と最初の三式を紹介した部分。(4-5式6-7式8-9式10-12式youtubeには同じく曲黎敏教授が新編の八段錦五禽戯を解説した動画もある。

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