中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

『中国武術青書』など

9月2日、上海体育学院武術学院に23省(直轄市自治区を含む)35機関から61名の専門家が集まり、『中国武術青書(中国武術藍皮書)』の編集に関する会議が開かれたという記事。

中国武术启动蓝皮书研制工作-武术学院

(最後に全文をコピペ) 

 

会議は、国家体育運動総局武術研究院、上海体育学院と中国体育科学学会武術与民族伝統体育分会の共同主催で国家体育総局武術研究院発展部、上海体育学院武術学院蔡龍雲大師工作室(なにをやっている「工作室」なんだろう?)が実施を請け負った。

 

刊行が予定されている「青書」は、中国武術の発展を振り返り、その現状を分析し、今後の発展の趨勢を予測することを目的とするらしく(注)、今回の会議では、武術史、武術文化、武術教育、武術の伝播、競技武術、段位制、武術の標準化、伝統体育の健康促進、養生発展、民族民間体育の発展といった切り口から意見が交わされた。中国のソフトパワーとして、武術の海外普及をいかに進めるかということも視野にはいっている模様。

つい最近、上海体育学院が非物質文化遺産についてのフォーラムを開催したこともメモしたけれど、このあたり、上海という土地柄なのか、新しいことに取り組んで、発信してゆこうという姿勢が感じられる。完成時期はわからないけれど、『2015/2016中国武術藍皮書』とあるから、そう遠くない将来にはまとめられるのだろう。公刊されたらぜひ読んでみたい。

 

zigzagmax.hatenablog.com

 

プロジェクトのメンバーとしては邱丕相(顧問)、虞定海、上海体育学院武術学院院長の戴国斌などの名前が出てくる。

戴国斌については、博士論文(邱丕相が指導教授)をもとに出版された『武術:身体的文化』という本を読んだことがある。

社会学や文化研究の手法で武術を研究しようとした意欲的かつとても刺激的な本で、ここ数年読んだ武術についての中国武術関係の本の中では、1,2を争う面白さだった。

 

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この本を読んで、特徴的だと思った点は二つあって、一つは上にも書いたような社会学や文化研究の手法がかなり意識的に取り入れられている点。いささか生硬な感じもしないでもないけれど、いままでの武術研究とは全く違った切り口から武術という対象を捉えなおそうという意欲が感じられた。 

もう一つは、1920年代から30年代の武術について語る際に、各地の国術館の定期刊行物など、当時の文章からの引用を多用している点。そんなこと学術研究では当たり前じゃないかという気もするけれど、武術についての本は、意外とこういう地味な作業をしているものが少なくて、はるか昔の古典からの引用や、大御所の研究者の説の受け売り、個人的な感想・印象の羅列に終始していたりするので、誰もが参照できる史料をもとに、論拠を積み上げてゆくという姿勢は好感が持てた。

 

その他、この本の中で「武術人」なる言葉が使われていたのが印象に残っている。

この単語、明確な定義はされていなかったけれど、中国語でいうところの「武術家」「武術工作者」「武術運動員」「武術愛好者」など、武術にかかわる人々を広く網羅する、最大公約数的な用語として考えられているようだった。同じ武術関係者でも、武術家と武術選手、行政的に武術に関わっている人では、それぞれイメージされる姿が異なる。この本では、それらを最大公約数的に「武術人」なる用語に置き換えて論を進めているようで、面白い試みだと思った。ただ、同じ武術関係者でも、上に挙げたようないくつか用語だけとってみても、イメージの幅が広すぎて、「武術人」なる用語を使ってしまったことで、却って言いたいことがあいまいになってしまい、残念ながらこの試みは成功しているとは思えなかった。

ただ、ときどき日本のメディアなどで競技武術の選手その他を含めて「武術家」と呼んでいるのを見ると、同じ中国武術関係者を呼ぶ場合でも、その呼び方は正しいのかと疑問に思うことがあり、「武術人」のように呼び方を工夫して考えなおしてみるのも、よい頭の体操になると思う。

 

だいぶ話がそれたけれど、「武術青書」のプロジェクトにちょっと注目しておきたい。

 

中国武术启动蓝皮书研制工作

(统发稿)
2016年9月2日,来自全国23个省(市、自治区)35家单位61名专家齐聚上海体育学院召开《中国武术蓝皮书》研制工作会议。本次会议由国家体育总局武术研究院、上海体育学院和中国体育科学学会武术与民族传统体育分会共同主办,由国家体育总局武术研究院研究发展部、上海体育学院武术学院和蔡龙云大师工作室承办。上海体育学院党委副书记王玉林、国家体育总局武术研究院研究发展部副主任王立峰、《中国武术蓝皮书》顾问邱丕相、虞定海、武术学院党总支书记霍圣录、副院长张云崖、副院长、副书记程华出席本次会议,会议由武术学院院长戴国斌主持。

中国武术是中华民族优秀文化遗产,是中国文化重要组成部分,是中国文化的国际名片之一。研制《中国武术蓝皮书》,是推进中国武术事业科学发展的需要,是中国武术研究文化自觉之使然,是“走出去”用武术话语讲述中国体育故事的准备。2015年11月—2016年3月,经反复酝酿充分协商国家体育总局武术研究院与上海体育学院达成合作研制《中国武术蓝皮书》的共识,将以中国体育科学学会武术与民族传统体育分会作为阵地,以“追踪中国武术发展实践,分析中国武术发展的现状,预测中国武术发展的趋势,研究中国武术的发展特点及规律”作为目标。

本次研制工作会议标志着《中国武术蓝皮书》研制工作正式启动,《2015/2016中国武术蓝皮书》将由“总报告、专题报告、调研报告”组成。本次会议分“专题报告组会议和调研报告组会议”两部分。在专题报告组会议中,与会专家围绕“武术历史、武术文化、武术教育、武术传播、竞技武术、武术段位制、武术标准化、传统体育健康促进、传统体育养生发展、民族民间体育发展”等十个专题进行了交流与讨论。在调研报告组会议上,专家们对全国47所城市“太极拳认知、太极拳习练人群特点、太极拳功理功效”的调研进行了深入研讨。

会上,上海体育学院武术学院院长戴国斌对《中国武术蓝皮书》研制工作设想、整体进度和工作要点进行了介绍。中国武术蓝皮书顾问邱丕相和虞定海教授认为,作为中国第一本武术蓝皮书具有里程碑意义,既是进一步推进武术运动实践的需要,也是深入开展武术理论研究的需要。国家体育总局武术研究院研究发展部副主任王立峰表示,《中国武术蓝皮书》的研制是中国武术历史发展的一件大事,表明中国武术人“构建中国话语体系,服务国家软实力建设,用武术话语讲述中国体育故事”的决心,是一项立意高远具有里程碑意义的重要工作。上海体育学院党委副书记王玉林认为,研制《中国武术蓝皮书》是上体服务国家战略的新举措,是作为中国体育科学学会武术与民族传统体育分会挂靠单位的上海体育学院推进民族传统体育学研究文化自觉的表现。[作者/汤新安 摄影/徐冬根]

http://wushu.sus.edu.cn/info/1047/4239.htm

 

 

中国武術青書」関係者のページ

 

邱丕相

baike.baidu.com

 

虞定海

baike.baidu.com

虞定海工作室」の公式ウェブサイト

虞定海工作室_工作室_凯风网

 

◎戴国斌

baike.baidu.com

 

中国武術博物館の動画コーナーに、上記の3名の講座の内容も含まれている。

 

(注)

記事の原文は「以“追踪中国武术发展实践,分析中国武术发展的现状,预测中国武术发展的趋势,研究中国武术的发展特点及规律”作为目标。」