『忠烈図』
少し前に購入していた、台湾製のキン・フー監督ボックスセットから、『忠烈図』を鑑賞。
戚継光と並んで抗倭将軍として名高い兪大猷が主人公で、サモ・ハン・キンポー演じる倭寇の棟梁(博多津)のグループとの戦いを描いた作品。
以前に読んだ、キン・フー監督のインタビュー集で、この映画では、日本人と中国人の混成集団である倭寇の服装や、腐敗した漢民族の軍隊にかわって少数民族が動員されていたことを描くなど、リアリズムにこだわったと監督自ら語っていて、かつクライマックスのアクションシーンは『侠女』と並ぶキン・フーアクションの傑作だと紹介されていたので楽しみにしていたのだけれど、ドラマ『大明王朝』などのスケールの大きい戦いに見慣れてしまうと、アクションシーンはやや物足りなかった。指揮官自ら武器をとって闘ったりしていて、明朝の正規軍と海賊の討伐戦というイメージではなかった。
シー・ファン演じる女性がミャオ族の格好をしているところが、少数民族が軍隊として動員されたことを象徴しているらしい。この点、武術史のテキストなどにも出てくる壮族の瓦氏夫人などがヒントになっているのかもしれない。思い出して馬明達「抗寇英雄瓦氏夫人」(『説剣叢稿』所収)を読み返してみると、瓦氏夫人の部隊は7人一組で戦っていたらしく、馬明達は、この戦い方が戚継光の鴛鴦陣のヒントになったのではないか、と述べている。瓦氏夫人自身は双刀が得意だったらしく、その双刀は、項元池を経て呉殳に伝わり、呉殳は『手臂録』に「双刀歌」を残している(注)。
サモハン演じる博多津はバカ殿ばりの白塗りメイクで、登場シーンでは雅楽が流れたり、倭寇たちが使っている日本語はなんだかおかしかった。言葉がおかしい点は、中国人が日本人のフリをしている様を描いていると解釈できないこともないけれど、さすがに白塗りメイクや雅楽までふくめで、「キン・フー監督、さすがのリアリズムですね!」と持ち上げることはできないと思った。キン・フー監督の中国史についての造詣と、日本についての理解のギャップが面白いといえば面白いのだけれど。
博多津役のサモハンのほか、倭寇の一味のなかに、酔拳の師匠役の袁小田、ユン・ピョウがいるのが目についた。顔はわからないけれど、スタント役でジャッキー・チェンも出ているらしい。
(注)
馬明達は、呉殳の双刀は、その後漁陽老人から会得した剣術の技法を取り入れて改変が加えられている、と分析している。双刀歌には具体的な技法まで歌われているわけではないので、この辺の議論の妥当性については判断できない。
- 作者: キンフー,宇田川幸洋,山田宏一
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