中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

『中原の虹』など

浅田次郎の『蒼穹の昴』シリーズの『珍妃の井戸』と『中原の虹』をGW前後に読了。

この本では袁世凱太極拳をやっている場面があったり、袁世凱暗殺を狙う刺客が武芸百般の達人という設定になっていたり(第五章に出てくる慶寛)、張作霖の拠点の新民府の舞台の演目のなかに少林拳があったり、わずかに武術も出てくるけれど、シリーズ全体を通して、特に武術家が大きな役割をになったりすることは無いけれど、いろいろ勉強になって面白い。

 

中原の虹 (1) (講談社文庫)

中原の虹 (1) (講談社文庫)

 

 

この本の中で張作霖の片腕として警察行政を中心に頭角を現す王永江という名前は前から気になっていて、徐々に政権の中心を担ってゆく様子をことを楽しみにしていたら、残念ながら本格的な活躍をはじめる前に『中原の虹』は終わってしまった。さらに続く『マンチュリアン・リポート』や『天子朦塵』では活躍するのかな。しばらくはおなか一杯な感じなので、『天子朦塵』が完結する頃を見計らって一気読みしたい。

その他、このブログの観点から興味深かった点をメモ。

 

1.北京の街頭の散髪屋の起源?についての記述。

  武術家のひげについてのメモを描いてから、「ひげ」に反応するようになったので、とりあえずメモ。

 甲午戦役の後で、清国の軍人はみな坊主刈になった。別に日本兵を見習ったわけではなく、弁髪に火が燃え移って多くの犠牲者を出したからである。僧侶にまちがわれないよう、薄い口髭を立てるのも軍人の習いになった。文庫版第2巻P.312

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2.張榕

 この小説では、張榕ら革命派の幹部を殺すのは張作霖だけれど(第八章 文庫では第3巻)、史実では張榕を裏切って暗殺したのは袁金鎧で、上記の王永江も、袁金鎧の幹部として台頭していったはず。

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3.お手本としての日本の「武士道」

 以下のような記述は、以前にメモした台湾大学の蔡振豊教授の論文 「中國近代武士道理念的檢討」(昔見た論文の場所を改めて開いてみたらリンク切れしていた)の考え方とも似ているような気がする。

 日本の明治維新を手本としたあの戊戌の変法では、「日本にできたことが清国にできぬはずはない」という康有為の主張が動力となっていた。しかしその論理には大きな矛盾のあることを梁文秀は知っていた。

 徳川幕府は純然たる武家政権であり、その本質には平和な時代にも変わらぬ尚武の気風 ---すなわち「武士道」があった。一方の清国は王朝の起源こそ同様ではあるが、実態は伝統の文治政治を踏襲した文官主導の国家である。日本人が明治維新の徳目とした「文武両道」や「質実剛健」という思想を、模倣するだけの基盤はなかった。第五章 文庫版第3巻P.111

 

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その他、GWに読んだ本では、岩井三四二の『大明国へ、参りまする』が題材からして面白かった。

 

大明国へ、参りまする (文春文庫)

大明国へ、参りまする (文春文庫)