中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 ※2015年2月、はてなダイアリーより移行

『激闘!アジアン・アクション映画大進撃』

『ドラゴン・ガール』のメモの最後に、アジアのアクション映画が旬なのか?とメモしたら、数日後にこの本が出版されてびっくり。さっそく手にとってみると、充実した中身で(とくに、知野二郎「伝説の映画帝国、邵氏兄弟有限公司 ---その栄光と波乱の興亡史」は必読)、さらにびっくり。いろいろと勉強することができた。

  

映画秘宝EX激闘! アジアン・アクション映画大進撃 (洋泉社MOOK 映画秘宝EX)

映画秘宝EX激闘! アジアン・アクション映画大進撃 (洋泉社MOOK 映画秘宝EX)

 

zigzagmax.hatenablog.com

 

 

とりあえず、このブログの観点から興味深かった点をメモ 

※順番は本を読みながら思いついた順

 

1.ヒーローアイコンとしてのイップ・マン
 イップ・マンは、黄飛鴻を引き継ぐ新たなヒーローアイコンと紹介されていたけれど(藤本洋輔「イップマン ムービーズ 黄飛鴻に代わる新たなヒーローアイコンの誕生」)、個人的には、黄飛鴻を引き継ぐというよりは、「精武門」ものの「陳真」の役割を引き継いでいる気がする。
 
 陳真は、アクション俳優の登竜門的役回りとして、ブルース・リー以来いろんな人が演じてくるなかで、日本人をやっつける民族的正義の象徴的なキャラクターだったのが、日本人の恋人を作ったり(ジェット・リーの『精武英雄』)、敵役が同じ中国人になったりして(チャウ・シンチーの『新精武門一九九一』(未見))、平和的な人物に描かれてきたことは、ときどき指摘されるところだし、なによりも虚構の人物であるということがそろそろ理解されてきているようにも思われる(そんなこと関係ねえ、といって新しい映画を作っちゃう某兄さんもいるけれど)。

 

 そんな中、ブルース・リーが演じた頃の陳真像のように、中国の観客がよろこぶ形で痛快に(もちろん、やむをえない状況に追い込まれてという設定だけど)日本人をやっつけたのが『序章』のイップ・マンで、公開当初は香港よりも大陸のほうで、官民そろって高く評価されたように覚えている。ただ、ドニー版イップ・マンも、現在日本で公開中の第3作で、はやくも平和的な人物と化し、クライマックスも中国人同士・同じ流派同士で戦うことになってしまっているのは面白い。

 

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 陳真像との比較で、黄飛鴻のヒーロー像がどんなものか、過去の作品を見ていないのでよくわからないけれど、同時代的に熱狂したジェットー・リー版だけをとってみても、『天地黎明』の冒頭では列強に植民地化された状態を憂う場面もあるなど硬骨漢のイメージだったのが、シリーズが進むにつれて、だんだんとお説教好きで、お色気には弱い堅物として茶化されるような場面もでてくるなど、このキャラクター像の変遷・愛され方も面白かった。

 

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 『イップ・マン3』のドニー・イェンとの八斬刀を使ったアクションが印象的で、この本でもプッシュされているマックス・チャン(張晋)は重慶出身なんだ。やっぱり火鍋とか好きなのかな?

 

www.youtube.com

 

2.カラ・ワイ
 マックス・チャンと同じく巻頭インタビューに登場。
 このブログでは、金象賞の助演女優賞にノミネートされた『捜査官X』での演技が印象に残ったことをメモしていた。『ドラゴン・ガール』についてメモした際に東南アジア各国のアクション映画もいくつか検索し『ミセスK』の予告編も発見していたのだけれど、この主演の人が同一人物だとは気づかずに、スルーしてしまっていた。
 インタビューでは「指の小指があらぬ方向に曲がってしまったりした」とか「男の人のパンチをお腹に50回ぐらい受けなければならない撮影などが普通にありました」などの現場の苦労が生々しくてとても興味深かったけれど、やっぱり大陸から流れてきたときの苦労話を聞いてほしかった気も。(本人は語りたくないかも。)

 

www.youtube.com

 

3.ウー・ジン
 ウー・ジン呉京)が「北京体育大学に在学中、ユェンウーピンに見いだされ」と書いてあって(P.149の注)、これって北京武術隊もある「什刹海体育運動学校」の間違いじゃないのかと思って調べてみたら、確かにどのサイトでも「北京体育大学卒業」と紹介されている。
 なので、それで間違いないのかもしれないけれど、1974年生まれで、6歳で什刹海体育運動学校、89年に北京武術隊に入り、1995年ごろからは映画やドラマに出演している。体育大学卒業が正しいとして、いつからいつまで在学していたのか不思議。

 ちなみに、改めてプロフィールを調べてみると満州族で祖姓は烏雅氏、ご先祖は「正黄旗」というのはびっくり。(カラ・ワイの祖先も満族正黄旗だったはず。)

 

baike.baidu.com

 

吳京 (演員) - 维基百科,自由的百科全书

 

 なお、この本では、ほぼスルーされているけれど(この本が一押しの、ドニー・イェンとのいがみ合いがあったからだろうか?)、チウ・マンチェク(趙文卓)は北京体育大学の代表チームのメンバーとして全国競技に参加しているのを実際に見たこともあるので、間違いなく北京体育大学卒業。ウー・ジンが同じように(北京武術隊ではなく)北京体育大学の代表チームの一員として全国競技に出ていた時期なんて、あったかな。 

 

4.ジェット・リー
 巻頭の口絵の部分で、ジェットというのは、漢字の「杰」(標準語ではjie)の字の英語読みから来ていると紹介されていた。
 調べてみると公式サイトの、ジェット・リーからのファンへのお返事に、似たような趣旨のことが書かれていた。そんな由来だとは知らなかった。

 

Fanmail 1999年5月12日 (ジェット・リーと言う名前の由来について )

 

 余談ながら、ときどき、李連「傑」という表記と李連「杰」という表記を見かけるけれど、この本では劉文兵氏の文章は前者、それ以外の日本の執筆者で言及されている場合は後者が使われていた。
 「杰」は「傑」の簡体字・俗字と考えると、日本語の文章では劉氏のように李連傑とかくべきじゃないのかなあ。


5.その他中国大陸系
 最初の武術映画は、任膨年監督の『車中盗』(1920)、その後1928年の『火焼紅蓮寺』が大ヒットして、1928年から1930年までの3年の間にカンフー映画は160本以上作られたものの、国民党政府が「非科学的な迷信を広める恐れがあり、群衆が蜂起する場面は共産匪の反乱を想起させる」として規制をすることになった。現存する唯一の同時代のフィルムは、文逸民監督の『紅侠』とのこと。(劉文兵「中国クンフーアクション映画の系譜  その起源と独自の歩み」)。

  ただし、ネット上には、1925年の『劫後縁』という作品の動画もある。1925年というのが正しければ、こっちのほうが古くなるのでは? また、同じ1928年の作品には『大侠甘鳳池』というのが以前はyoutubeで見られたのだけれど、いまはアカウントがなくなってしまっている。
 『紅侠』はネット上で動画が見られる。映画はモノクロだけど、主人公のコスチュームはタイトルどおり赤が基調なのだろう。そうした点や、孫悟空のような登場人物、空を飛んでいる表現などは、義和団のイメージと確かに重なるし、規制を受けてしまったのもわかるような気がする。

 

〇『紅侠』(1928)

www.youtube.com

 

〇『劫後縁』(1925?)

v.ifeng.com

 

 この頃の出演者や武術指導の人について、詳しい情報はないけれど、以前に読んだ『話説摔跤与上海』に、精武体育会出身の査瑞龍が月明影片公司の社長に見初められて、いくつかのサイレントの武侠映画に出演して人気を博したと書いてあったことを思い出した。何か調べるとしたらこのあたりがきっかけになるかもしれない。

www.91soumu.com

 

〇聶宜新編著『話説摔跤与上海』の査瑞龍の紹介(P.194)

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・大陸の新秀として、シュー・ハオフォン(徐浩峰)監督とワン・バオチァン(王宝強)を押してくれているのはなんだかうれしかったけれど、ソン・ヤン(宋洋)と並ぶ徐監督作品の常連だった故・承恵の雄姿が『師父(邦題:ファイナル・マスター)』では見られないのがさびしい。

 ワン・バオチァンは売れっ子だから主演作を数え上げたらきりがないかもしれないけれど、初のアクション映画主演作にして、カラ・ワイとも競演した(恋人のお母さん役)『蔡李佛拳』について語っておくべきだったのでは。

 

『蔡李佛拳』の王宝強

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写真は以下の記事から

www.1905.com

 

〇過去メモから。その後公開された『カンフージャングル』では、ワン・バオチャンのシリアスな方の演技で話題に。

zigzagmax.hatenablog.com

 

 

 あと、大陸系の名優では、少林寺で片や主人公の師匠役、片や敵役としてジェット・リーを支え、その後も数々の作品で重要な役回りを演じ、存在感を示してきた于海や于承恵ほかの人たちは、この本の趣旨とはあわないかもしれないけれど、もっと評価されてよい気がする。

 于海・于承恵クラスには劣るかもしれないけれど、徐向東の悪役としてのはじけっぷり(ミシェル・ヨーの『詠春拳』、ドラマ版『セブン・ソード』『奪標』)や、計春華のいるだけで絵になる存在感はいつも見事。

 

 〇『阿羅漢』の于海VS于承恵

www.youtube.com

【于海主演】电影,电视剧全集_于海影视作品大全推荐-2345影视明星

于承惠电影全集_于承惠最新电影_于承惠演过的电影作品【2345电影大全】

【徐向东主演】电影,电视剧全集_徐向东影视作品大全推荐-2345影视明星

【计春华主演】电影,电视剧全集_计春华影视作品大全推荐-2345影视明星

 

〇『奪標』の徐向東VS張衛健 

関係ないけど、この映画ではユー・ロングァンが中央国術館の張之江館長を熱演

www.youtube.com

 

〇『レジェンド・オブ・フラッシュ・ファイター 電光飛龍/方世玉2』のジェット・リーVS計春華 

www.youtube.com

〇計春華

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写真は以下の記事から。

娱乐圈第一反派 功夫不输李连杰 老婆竟是“彩霞”

www.chinanews.com

 

6.その他
・袁和平は袁小田の息子だったとは、意識してなかった。

ピーター・チャン(陳可辛)は名監督チェン・トンミン(陳銅民)の息子で、

 

ピーターは、チャン・チェの代表作『ブラッド・ブラザース/刺馬』(73年)を『ウォーロード/男たちの誓い』(07年)としてリメイクすると、張家班オールスター映画『上海13』(84年)の強い影響下にある作品として『孫文の義士団』(09年)を、そして『片腕必殺剣』を『捜査官X』(09年)として次々とリメイクすることで、チェン(ママ)・チェへの深い敬意を示した。このピーター・チャンこそチャン・チェの残した“陽剛精神”の遺伝子を継承する新たなる“武侠宗師”であると言えよう。P.66

なんて記述がさらっとでてくる知野二郎さんの知識は本当にすごい。

 

・『五毒拳』(別の映画(『五遁忍術』)と間違えるというちょっとした手違いで以前にDVD入手済み)の武術指導は、イップマンの弟子・梁相が教えた梁挺(リャン・ティン)で、『五毒拳』こそ「早すぎた暗黒詠春拳映画」(P.64)であった。これは、もう一回みなきゃ。

  ちなみに、『五遁忍術』も、奇想天外なアイデアとビジュアルで、一回見たら忘れられない映画。

 

〇『五毒拳』

 パッケージには「武術指導は詠春拳の大家リャン・ティン」と確かに書いてあるけれど、そこから梁相、葉問と遡れなかった。

五毒拳 [DVD]

五毒拳 [DVD]

 

 

〇『五遁忍術(邦題は少林拳対五遁忍術)』の金ぴか忍者 (全然忍んでないし(笑い))

写真はここから

Five Element Ninjas – Vintage Ninja

 

・シラット映画
 スクリーンにシラットが出てくるのは最近の傾向なのかと思っていたら、実は70~80年代、インドネシアでは「シラット映画」と呼ばれるアクション活劇が人気を博していた(P.243)らしい。

 

 

・・・・・なんか、いろいろ詰め込みすぎた気がするのでこの辺で。あつい思いのこもった本を読んだおかげで、こちらも妄想が膨らむ膨らむ。

総じて、こんな本を読んでしまうと、いろんな映画のDVDがほしくなってしまって仕方がない(泣)