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中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 ※2015年2月、はてなダイアリーより移行

太極拳の「自選」競技と「規定」競技

全日本武術太極拳選手権大会の大会パンフレット(2016年の7月に開催された第33回のもの)によると、武術競技の世界で、従来の自由演技に対して、「武術の国際化の流れのなかで、各国の選手の技術の向上を促進し、また、審判をより合理的に行なうために」、統一規定演武型(規定套路)が定められたと紹介されている。

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この説明に従うと、統一規定演武型(規定套路)で行なわれる規定競技部門に対して、自選套路で行なわれる競技が自選競技部門という分類になる。

ところが、全日本選手権の実際の競技分類では、以上のような「自選・規定」とは違う意味で「自選」に分類されている競技も見られる。

たとえば「48式・88式太極拳」という競技は、48式も88式もそれ自体は「規定」(制定)套路だけれど、出場者が「48式太極拳または88式太極拳から自選する」という意味で、自選競技に分類されている。3分以上4分以内という制限時間内で88動作やるのはたぶん無理なので、かなり短く刈り込まれているのだろう。

また「太極剣・刀」という種目は「32式、42式太極剣を含む全ての太極剣・刀から自選する」(大会要綱)とされており、実際のエントリーをみても32式、42式のほかに、陳式剣、呉式剣、武当剣、太極剣、楊式剣、楊式刀、呉式刀のエントリーがある(2016年、男子競技の例)。いわば、規定套路を含む、各種の太極剣・刀の套路の中から、参加者が「任意のものを選ぶ」という意味での自選競技になっているように見える。

(「楊式太極拳」「陳式太極拳」「呉式太極拳」「孫式太極拳」の各太極拳も、同じ。)

 

全日本選手権において、「自選・規定」の定義がこのように入り組んだ形になっているのは、競技種目が整備されてくる中でのいろいろな歴史的経緯もあると思うけれど、いったん「自選競技」に分類された以上は、「太極剣・刀」や各式太極拳の出場者は、特定の規定套路(たとえば32式剣)をベースにしつつ、苦手な技があれば省略したり、得意な技・見栄えのいい技に自由に置き換えて、適当な名目で競技に参加できるというのが現在のルールだと思う。ところが、実際には敢えてそうした改変をしないで出場している人たちが多いのは面白いと思う。

このことは、この「種目」に出場している人たちが、套路を改変してより高い点数を出すことよりも、先生の教えに忠実に、習った套路を「そのまま」演じることに意義を見出しているということを表しているのかもしれない。

(実際の競技を見ていないのでよくわからないけれど、32式剣、42式剣以外で出場している人たちの多くも、本当の意味での「自選」套路ではなく、それぞれに先生から習った套路を「そのまま」演じているのではないかと思われる。)

 

高得点を得るために套路の本来の構成や要求を改変するよりも、先生に習った型を「そのまま」演じることに、より深い意味を見出す心情は、自分が取り組んでいるのは現代スポーツじゃなくて「伝統的な習い事」「文化の継承」の一種であって、伝えられたものをそんなに簡単に変えてはいけないんだ、という理解に繋がっているようにも思われる。こうなってくると、問題は単に「自由演技」か「規定演技」かという議論を超えてくる。また、そもそも基準の異なる伝統の套路をもちよって演武して優劣を競うことは可能なのかという別の、ある意味身も蓋もない議論にもなってしまうけれど、何か武術競技をめぐる本質的な問題が潜んでいるような気もするので、備忘として。

 

競技スポーツと割り切って考えるのと、伝統にこだわるのと、どちらが正しいと単純に言えるものではないけれど、同じように「(中国)武術」とか「太極拳」を名乗っているものなかにも、内容や目指す方向に大きな違いがあるということは、教える側も学ぶ側も理解しないといけないのだろう。理由はよくわからないけれど、日本では敢えてそのあたりを曖昧にしている傾向があるようにも思う。

 

 

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