中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 ※2015年2月、はてなダイアリーより移行

澤田瑞穂『中国史談集』

  最近すこし呪術やらまじない、民間信仰に関心がでてきたところで、地元の図書館にあった澤田瑞穂『鬼趣談義』『中国の呪法』『中国の仏教と文学』などを立て続けに読んでみた。(掲題の本だけは図書館にはなかったので、中古のものをアマゾンで購入。)

『鬼趣談義』『中国の呪法』が若干おどろおどろしい内容なのに対し、この本は少し堅い内容なのかなと想像していたら、まったくそういうわけではなかった。戦乱で一時消息不明になった皇族を詐称する人々のお話(「南宋真贋列伝」)をはじめ、にせ倭寇(タイトルも同じ)、結婚詐欺(「痩馬を育てて」「花嫁の替え玉として神像を送る話」)など、さまざまな「にせもの」をめぐる話のほか、刺青の話(「彫青史談 ---中国における文身の種々相---」)、奇妙奇天烈な刑罰の話(「惨刑」「皮を剥ぐ話」「生き埋めのこと」)など、おもしろい切り口のお話が盛りだくさんで、とても勉強になった。中国史は奥が深い。

このブログの観点から面白いと思った点をメモ。

 

1.愛国心・尚武精神について
 この本の中で、岳飛が「尽忠報国」という四文字の刺青を背中にいれていたことをはじめ、その前後の似たような武将の例について報告されていた。たとえば、岳飛に先立つ北宋の将軍呼延賛は自ら全身に「赤心殺賊」の字を刺青し、妻孥僕使にも同じようにさせていたほか、四人の子供には耳の後ろに「出門忘家為国、臨陣忘死為主」の十二字を刺させていたという。また、南宋時、王彦が指揮する部隊の勇士一万余人は、みなその面に八字を入墨し、「八字軍」と号していた。八字とは、「赤心殺賊 誓殺金賊」の八文字のことであるらしい。

こうした習慣は明代には廃れていったようだけれど、これなどは、まさに愛国心と武勇が合体した例のようで、だとすると、少し前にメモしたような、漢代に至って、日本の武士道にもつながる中国の遊侠的精神は個人のレベルの任侠的行為に堕したという議論は一面的である気がする。(とはいえ、国民に対して、いくらなんでも(顔でも背中でもいいけど)「みんなで愛国心をあらわす刺青をしましょう」とはいえなかっただろうけど。) 

そういえば、岳飛の背中の刺青の話は、DVD化される中国ドラマ『岳飛伝』の宣伝で田原総一郎がとりあげているのを朝日新聞で読んだ。

 

ちなみに、軍隊で刺青が流行していた時代に、腕や足に彫り物をしていていたのを、花拳繡腿といったらしい。この言葉、武術の世界では、見かけ倒しで使えない武術を指していう言葉になっているけれど、もともとは違う意味を持っていたことがわかって、これも面白かった。

 

また、愛国心ということとは繋がらないけれど、水滸伝の好漢の中にも、花和尚魯智深、九紋龍史進ほか、阮小五、楊雄、燕青、龔旺など、刺青をしていると思われる好漢がたくさんでてくることが紹介されている。

 

2.先祖の伝承のこと

 「張真人の犯罪」という文章は、正一教の第46代張元吉をとりあげたもので、『続道蔵』に収められた『漢天師世家』で、彼が前後6年もの間、古の仙人にならって公職を捨て、「名嶽に歴登し、仙人旧隠の跡を探った」聖人として描かれていることがあまりにも不自然であるとして、『明実録』や、その他の学者の文章から、この間に、実際に何があったのかを検証してゆく。その結果、実はこの6年の間に、教団のトップである真人位の継承争いがあったり、教団内の暴行・殺人の事実が明るみになって、訴訟に至った結果、配流充軍などの事実があったことが示される。

 こういう考証を読むと、あるグループ(教団でも流派でも何でもいいけど)が自ら伝える伝書の類をもとに、それを歴史的事実と受け止めることにはやはり慎重であるべきだとつくづく感じるし、情報はやはり多面的に集めないといけないんだろうと思う。

3.胡宗憲

  ドラマ『大明王朝』で、胡宗憲を演じていた王慶祥の演技がなかなか渋くて、その後も、王慶祥の出ているドラマを探した時期もあったのだけれど(ウォン・カーウァイの『グランドマスター』でも宮宝森を演じた)、この本に紹介されている胡宗憲は、倭寇の統領・徐海を捕らえるのに、その奥さん(翠翹)を言いくるめて投降を勧めさせ、徐海が投降してくると、約束を守らずに徐海の首をはねてしまい、利用した翠翹も自殺に追い込むなど、あらゆる権謀術数を駆使した人物であると書かれていて、ちょっと複雑な気持ち。

 

中国史談集

中国史談集

 

 

 

中国の呪法

中国の呪法

 

 

 

鬼趣談義―中国幽鬼の世界 (中公文庫)

鬼趣談義―中国幽鬼の世界 (中公文庫)