中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

国家級「非物質文化」第四次リスト

少し古い話だけれど、11月11日、国務院が国レベルの非物質文化遺産の代表作の第4次リストを公開した。

この中に含まれている武術関係の項目は、拡張項目まで含めると以下のとおり。

1304 通背拳 北京市西城区
1305 戳脚  河北省衡水市桃城区
1306 精武武術 上海市虹口区
1307 綿拳 上海市楊浦区
1308 咏春拳 福建省福州市
1310 徐家拳 山東省新泰市
1311 梅山武術 湖南省新化県

293 太極拳(呉氏太極拳、李氏太極拳王其和太極拳、和氏太極拳
  北京市大興区,天津市武清区,河北省任県,河南省温県
298 蒙古族搏克 内蒙古自治区東烏珠穆沁旗,新疆維吾尔自治区烏蘇市
805 螳螂拳 山東省青島市市南区
807 岳家拳 湖北省黄梅県

過去のリストについては、第3次リストが公開されたときにまとめてみた

以下、これらのリストをみて思ったことをとりあえずメモ。

1.
太極拳は、第一次リストの発表時に陳氏と楊氏が含まれていて、第二次リスト公表時の拡張リストで武氏が追加され、今回、呉氏以下が加わったことがわかる。
よく知られているものとしては、孫氏はまだ加わっていないようだ。逆に、王其和太極拳というのはしらなかった。

2.
蟷螂拳、岳家拳は、すでに個別拳種としては登録されているものに、いくつかの伝承地が拡張リストという形で新たに追加されている。こういう形で、特定の流派の主要な伝承地が登録されるのは、ある意味とても参考になる。

3.「精武武術」は、具体的にどういった内容が登録されているのかわからないけれど、あたかも「精武武術」という、一つの流派のように登録されれているのが面白い。確かこの前読んだ『仏山精武体育会』にも書いてあったけれど、精武体育会は設立当初、従来の流派武術の考え方とは一線を画して体育としての武術を標榜していて、一人の学習者は特定の流派によらず、多くの内容を学習することが奨励されていたはずで、その主なものが精武十套といわれているのだと思うけれど、設立以来100年もたつと、それ自体が、あたかも一つの流派のようになっているということだろうか。この記事では、新たに市場のニーズにこたえるために、向こう一年以内に精武拳(暫定名称)を発表する予定、などと出ている。
これって、もしかすると、少林寺や陳家溝に蓄積された、出自の異なるさまざまな武術が、後世「少林武術」と呼ばれたり、陳家溝の武術と捉えられているのと同じことが起こっているのかもしれない。

4.
この無形文化遺産登録、もともとは、「代表的伝承者」とセットだった気がするのだけれど、よく見ると、第二回目以降は代表的伝承者が公開されていないようだ。代表的伝承者といっても、あくまで無形文化遺産登録を申請した行政地区における伝承上の重要人物という意味であって、全国規模での重要人物であることを意味しないなど、いささかややこしいとことになっていたので、そちらの認定はやめたのかな?

5.
今回の認定に先立って、7月16日に中国文化部は推薦リストを公開し、20日間にわたってパブリックコメントを求めている。このときのリストとつきあわせてみると、「意拳」、「梁山武術」、「両義拳」、 拡張項目の「太極拳」の中にあった「張三豊太極拳」(申請は福建省)が認定されなかったことがわかる。(参考報道は、例えばここ。)
継承者がおらず、消滅の危機にある無形文化遺産を保護することがリスト作成の本来の目的だとすると、比較的新しい流派である意拳が認定されていないのは、(武術としての有用性とは全く関係なく)ある意味当然といえるかもしれないけれど、なんとなく全体として、保護するというより、国家レベルでお墨付きをいただくということに重点が移っているような気もする。特に、太極拳の主要流派が軒並み顔を揃えつつあるところなどは象徴的な気がする。
この認定作業が後継者育成などにどれだけ役にたっているのかは、断片的な情報はあるけれど実際のところはよくわからない。