中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

『Iron and Silk』

『American Shaolin』について、アメリカの友人に読んだことがあるかたずねてみたら、感想とあわせて、こういう本もあるよ、ということで教えてもらったのが『Iron and Silk』。作者のMark Salzmanが1982年から1984年に英語教師として長沙に滞在し、潘清福から武術を学んだときのことや周囲の人々との交流を描いているらしい。映画化もされているということで、探してみたらyoutubeにあったので、さっそく見てみた。映画は、Mark Salzman本人が主演しており、潘清福も本人役で出ている。(ぜんぜん関係ないけど、Mark Salzmanと潘清福が二人並んで練習しているシーンが一瞬、ホワイトナイツでバリシニコフとグレゴリー・ハインズが並んで踊っているシーンに重なって見えた。)舞台はなぜか杭州に変更されている。

恋愛を含めて、奔放な活動をするMark Salzmanに対して、外事弁公室の担当を含め、次第に警戒を強めてゆき、武術館への出入りがある日突然禁止され、仕方がないので誰もいない倉庫で箒を使って双手剣を習うところなどは面白かった。
アメリカの原爆使用にたいする中国の生徒たち(といっても、学校の先生たち)との議論については、日本人としてはやや複雑な思いも(注)。

(潘清福も出ていることを知ってか知らずか)映画の中に『少林寺』のシーンが何度も出てくるけれど、改革開放政策の流れの中で生まれたあの映画の世界的なヒットによって、それまで華僑などを通して広がったものとは違う中国大陸の武術が紹介され、世界中の様々な国の人々を驚かせた。間違いなく、自分も影響を受けた一人であるけれど、当時まだ中学生だったので中国への渡航はしばらくは実現しなかった。それでも、そういう大きな時代の流れの中で、世界中の人々が武術と出会い、恩師と出会ったんだなあということが伝わってくる映画だった。原作のほうも時間があったら読んでみたい。

「ぼくにkung-fuを教えてください」と頼むMark Salzmanに対して、「俺たちはkung-fuじゃなくてWushuと言うんだ」と潘清福が答えるシーンは、また別の意味でちょっと象徴的な気がした。

映画の最後でも紹介されているけれど、潘清福はその後カナダに移住したらしい。

潘清福も出てくるディスカバリーチャンネルの武術特集(1/2)

(2/2)

Iron and Silk

Iron and Silk


2017.7.15追記
潘清福は2017年6月29日にお亡くなりになった。謹んでご冥福をお祈りする。
以下は、彼の死を伝えるクンフーマガジンのウェブ記事。
http://www.kungfumagazine.com/ezine/article.php?article=1367

www.youtube.com




(注)
戦争を早く終わらせるため、原爆を使うのは止むを得なかったんだと答えるMark Salzmanに対して、中国の生徒たちが「アメリカが原爆を使うまえに、中国戦線で日本は中国に降伏していた」と反論するシーンがある。中国の歴史教科書ではそんなふうに書いてあるのか?とちょっと驚き。Mark Salzmanは「それは僕たちの学ぶ歴史と違うね」と皮肉っぽく答える。