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中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 ※2015年2月、はてなダイアリーより移行

国際競技用刀術

国際競技用のいわゆる第三套路というのが2011年12月に作られている。日本連盟は最近この第三套路のための、指導者用講習会を開いたりしているようだけれど、たまたま、刀術の第一套路から第三套路までのテキストを見比べてみて、「点刀」、「崩刀」といった刀法は、第一套路ではともに複数回出てくるけれど、第二、第三套路には含まれていないことに気がついた(注1)。

また、共通して含まれている動作でも、やや形態が変容していると思われるものもある。たとえば、「帯刀」。『中国武術大辞典』では、「帯」とは、自分の武器の刃で相手の武器の刃に触れて、相手の攻撃を中心線からそらすこと(原文「所謂‘帯’是用己之兵刃、触及対手是兵刃、使之偏離中線」やや意訳)といい、具体的な動作としては、(自分の武器を)前方から後側方に引き戻す(「由前向側後抽回))としている。第一套路の第二段に出てくる「抽身帯刀」は、この説明がまだあてはまる気がする。第二套路には「帯刀」は出てこず、第三套路には第二段に「後点歩帯刀」、第三段の最後に「弓歩帯刀」がでてくるのだけれど、上述したような、自分の武器を手元に引きつつ、相手の武器の軌道をそらす、という意味を当てはめて考えるのはやや難しい気がする。

もうひとつ例をあげると、「蔵刀」の動作は第一套路から、第三套路まで共通で含まれているけれど、本来の意味からいえば、蔵刀は、自分の刀を相手から隠す(「蔵起来」)という意味になるはずで、この点、『中国武術大辞典』や『中国武術百科全書』では、平蔵刀の動作のときは右骨盤で刀を隠す、と書いてある(注2)。この点、第一套路、第二套路の「弓歩蔵刀」、第二套路の「提膝蔵刀」あたりは、まだこの記述とあっているように見える。ただ、第二套路の「仆歩蔵刀」あたりは、やや怪しくなっていて、第三套路の「仆歩蔵刀」(収式のまえの、ほとんど一番最後の動作)になると、最早、刀を隠そうという気があるのかどうか、かなり怪しい。

・・・と思って動画を探したら、第三套路の映像の解説では、動作名称が「仆歩蔵刀」が「仆歩持刀」(つまり、ただ仆歩で刀を持つ、という名称)に変わっていた。さすがにこれを「蔵刀」と呼べないと思ったのかな?だったら、テキストも修正してくれよ、と思うけど・・・。

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厳密な比較とはほど遠いけれど、この比較を通して、第一套路から第三套路へ、一見、複雑な跳躍動作や組み合わせが多くなり「高度」になっているように見えるけれど、これらの三つを続けて習ったところで、各種「刀法」への理解が深くなるというわけではない、ということが明らかになった気がする。もっとも、高度な身体操作とか、より複雑なジャグリング的武器の操作という方向性があってもいいと思うし、国際武術連盟としては、むしろ明確にそちらの方向性を目指しているといえるので、どちらがいい、悪いということではないけれど、少なくとも競技武術と伝統武術で目指す方向性が違うことは、学ぶ側の問題として、はっきり認識しておいたほうがよいかもしれない。

(注1)
もっとも、「初級刀術」、「二級刀術」、「三級刀術」にも点刀、崩刀は出てこないので、もともとこれらの動作が刀術の代表的動作とはいえないのかもしれず、西北武術の動作をとりいれた趙長軍の套路をベースにしてしまったがために生じた問題であるのかもしれない。

(注2)
中国武術百科全書』では、刀を右骨盤で隠すだけではなく、刀の前部を身体に貼り付ける、としている。原文は以下のとおり。「平蔵刀:刀尖朝前、刀刃朝下、使刀平直地蔵於右髖関節外側、要求刀的前部貼身」。なお、蔵刀には、平蔵刀のほかに、立蔵刀、?措腰蔵刀がある。

第一套路(自然な音響だけど、すごい迫力だ)

第二套路(あとからつけた効果音がなんだか変・・・)

第三套路