「大相撲に明日はあるのか」(内田樹『武道的思考』収録)
地元の図書館にあったというだけの理由で、あまり期待もせずに手にした『武道的思考』。内田氏のブログから編集者がピックアップしたということで、書籍にするのは正直どうなんだろうと思うような内容も含まれている気がしないでもないけれど、いくつかとても参考になるものがあった。
なかでも、表題の文章の、大相撲に関する内田氏の考え方は参考になった。
内田氏は、相撲とはそもそも何だろうかと問い、
神事なのか?武道なのか?格闘技かのか?スポーツなのか?スペクタクルなのか?伝統芸能なのか?を検証してゆく。
内田氏の結論は、相撲とは、そのどれでもなく、「いろいろな要素が渾然一体となった、なんだかわからないもの」であり、実はその「なんだかわからなさ」のなかにこそ相撲の魅力がある。逆に、現在の相撲の成り立ちや、受け継がれているしきたりなど(あ、これは自分の言い方)を「きちんと話の筋目を通して何かしようとするとうまくゆかなくなる」システムであるという。
そして、「じゃあ、いったいどうすればいいんだ」と訊かれても答えようがないけれど、「なくなってもいいんだね」ということになると、「いろいろ差し障りがでてくるもの」である。
ひるがえって中国武術界を見ると、やれ「民族スポーツである」とか、いや、スポーツを超えた「文化」であるとか、くそ真面目に「定義の見直し」をやったりするところがあり、その対立は競技武術と伝統武術の関係にも現れていると思うけれど、自分のような外国人の目から見れば、競技武術も伝統武術も含んだところに、より広義の「中国武術」が存在するように見える。その中身はもちろん玉石混交だけれど、だからこそ中国武術というのは懐が深く、生命力があって面白いと考える自分のような人間には、この議論はとても参考になった。
そして、自分にも、中国武術の未来について、「どうしたらよい」というような考えはないけれど、これからも中国武術が、様々な人の思いを乗せて、受け継がれてほしいと思う。
- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/10/15
- メディア: 単行本
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