酒井忠夫『中国民衆と秘密結社』
義和拳集団の起源について、G.N.スタイガーは、それは一種の民団、つまり義勇兵による民軍であった、として、保甲制以来の中国郷村における自衛の伝統について言及していたけれど、あまり詳しい説明はなかった(『義和団』)。
この点について、酒井忠夫『中国民衆と秘密結社』は参考になった。
明清以降、生産力の拡大や、移民の奨励に伴って、経済の規模が拡大すると、有る特定の地域でのみ活動するごろつき「地棍」のほかに、地域をまたいで活動するごろつき「流棍」が現れる。彼らは、地域間の流通や治安を守る役割を果たす一方で、治安を脅かすもとにもなるので、地方官僚たちは民団「郷勇」を組織して対抗しようとする。「郷勇」はいったん形成されると、地方官僚の不正蓄財の手段として利用されるなど、本来の機能から逸脱して利用されることもある。「郷勇」は、白蓮教の乱や太平天国の乱などに際しては正規軍に組み入れられるなどして、一時的にその規模が拡大することがあるが、いったん反乱が鎮圧されれば、正規軍としての地位は取り消され、その生活は再び不安定になり、収入源を失った彼らが「地棍」「流棍」集団として、新たな治安上の問題にもなったようだ。
こういう、中国史における移民の問題や、「地棍」、「流棍」、「民団」、「郷勇」といった社会集団について、知識があまりにも無いことを痛感。
四川省は、とくに明末清初に人口が激減して、他省からの移民が奨励され、新たに田畑を開いたりして、経済の流通を促進した。四川省の武術の多くが「外来拳種」であるといわれるのは、こうした移民の歴史と関係があると思うけれど、これらの移民の出自と、武術流派に注目した研究はあるのだろうか。
いまのところただの印象論でしかないけれど、移民の多くが「湖広填四川」といわれるように、湖北、広東あたりから来ているといわれているのに、外来拳種は北方系武術が多いような気がする。張義満編著『武功薪伝』には、重慶の梁平地区にいまも伝わる金家功夫が取り上げられているけれど、張氏はこれを、西南地区に伝わった心意六合拳の支脈であると指摘している。金家功夫についてはいずれ別にトピックをたてたい。
…と、わかったようなことを書いたけれど、この本、タイトルから予想されるイメージに反して(?)きわめて真面目で難しい単語が並ぶ本だった。
酒井忠夫教授はこの本のほかにも、宗教結社に関する著作や、青帮・紅帮、道教に関する研究を残されている。読みこなす自信はないけど、機会があれば目を通してみたい。
少林寺のHPにある、少林拳と巴蜀武術の関連を論じた論文
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