老舎『駱駝の祥子 らくだのシアンツ』
「断魂槍」(1、2)との関連で、「駱駝の祥子 らくだのシアンツ」を読んでみた。
シアンツにとっての車は、一人前の男の象徴。その意味では、シアンツにとっての車は、やはり短編『断魂槍』の沙子龍の槍と似たところがあると思った。
ただ、車さえ手に入れていれば、彼は幸せになれたのか。この小説ではそういう問題提起もしている。
たとえば、孫を連れてぼろぼろの車を引き続ける老車夫のあまりにもみすぼらしい姿を見て、自分の車さえ手に入れればすべてが万事上手くゆくという彼の信念はゆらぎはじめる。
次第に夢破れて堕落してゆくシアンツ。その最後を「堕落した、我利我利亡者の、不幸な、病める社会の子、個人主義のなれのはて」と情け容赦なく形容するところはすごい。それでも、どこか暖かい共感を寄せてしまうところがこの小説の不思議なところだ。
以下はどうでもいいような余談。
1.立間祥介氏の訳は、おそらく「插嘴」とあるところを「くちばしをはさむ」訳されているのが気になった。普通に「くちをはさむ」でよかったのに、「嘴」という漢字につられてしまったのだろうか(注)。
2.岩波文庫の表紙の絵は、車ではなく、二人で担ぐ籠なのはなぜなんだろう。二つ並んでいるうちの右側に描かれているのが車なのかもしれないけれど、それにしたってこの小説には籠のことは出てこないので、やはり理解に苦しむ…。
注(2016.8.18追記)
ただし、日本語としては全くおかしくないことを確認。
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- 作者: 老舎,立間祥介
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1980/12/16
- メディア: 文庫
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