中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 。頭の体操なので、たまたま立ち寄られた方は決して鵜呑みにしないこと(これ、肝要)※2015年2月、はてなダイアリーより移行

西部少林寺

福建省の投資グループが重慶市江津区で3億元をかけて「西部少林寺」を建設するプロジェクトがスタートしたという。

嵩山少林寺は、天津に分院を建設したり、雲南省の4つの寺院を委託管理しているけれど、今回は嵩山少林寺のプロジェクトではなく、泉州少林寺の関連プロジェクトのようだ。

『少林学論文選』に収録されている周偉良「明清時期少林武術的歴史流変」によると、80年代後半、映画『少林寺』のヒットもあり、3つの都市が「伝説の南少林寺をつきとめた」と主張したらしい。

周氏の論文から、それぞれの場所と根拠、問題点を端的に示せば次のようになる。
(その要点は周偉良編『中国武術史』(高等教育出版社)にも反映されている。)

1.泉州 
根拠:『清源金氏族譜・麗史』中の二つの記載、すなわち(1)「(泉州)城中士有伊生楚至者、甫弱冠、読書少林寺」、(2)「夏六月、生至自潮州、居少林寺」とあること
(1983年、福建省武術協会『八閩武壇』第3期傅健生「泉州少林寺初考」、同第4期「泉州少林考」)
問題点:(1)『麗史』は「恋愛小説」であり必ずしも史実を反映したものではない。(2)少林寺の記載は確かにあるが、それが泉州にあるとはかかれていない。

根拠2:『西山雑誌・少林寺』(清の嘉道年間、晋江の蔡永蒹撰)中の記載、唐初十三棍僧の「智空入中、建少林寺於清源山麓、凡十三落、閩僧武派之始也」の記述。
(1992年7月9日『福建日報』「泉州新発現有関南少林寺的重要史料」
問題点:これも小説家の説であり、かつ『西山雑誌・少林寺』には誤りが多く、根拠とするには問題がある。

2.莆田(林泉院)
根拠:福建省文管会考古隊の発掘報告
(1989年11月21日〜2月、『中国体育報』上で方金輝記者による連続報道)
問題点:実際上、発掘報告には、林泉院が少林寺であることを裏づける史料は無い。林泉院の石槽に「当院僧兵」とあることを根拠にあげる研究者もいるが、僧兵は少林寺だけの現象ではない

3.福清
根拠:(1)1993年3月福清市政府関係者が東張鎮少林村で遺構を発見、1996年6月、国家文物事業管理局による福清少林寺認証(証照)
   (2)南宋の文学家劉克荘の『後荘先生大全集』巻159中の記載
   (3)その他、南宋時代の状元・梁克家『三山志』、明代弘治十二年(1499年)の『八閩通志』巻75、正徳十五年(1520年)の『福州府史』巻40中の記載
問題点:福清「少林寺」の存在は確認できるが、武術の修練が行われていた形跡がないこと。天地会史料、とりわけ『会簿』の記載との整合性

ちなみに、この3説、いまでも決着がついたとはいえない状況らしい。
莆田少林寺は、莆田南少林文化節を開催しているし(最近の開催は2009年?)、泉州少林寺は、なぜか「水上歩行」のデモンストレーションがよく報道される

なお、嵩山少林寺の徳禅和尚は第2説が登場した当時、「南少林寺就在福建莆田九蓮山下」の題字を揮毫してこれにお墨付きつきを与えたらしく、莆田市政府は北京の人民大会堂で記者発表も行っている。

嵩山少林寺が管理する雲南少林寺のHP
泉州南少林寺のHP
莆田南少林寺のHP

重庆建“西部少林寺” 引泉州少林寺僧人进驻 
2012年05月18日 10:24:57
来源: 中国新闻网

  记者17日从重庆市江津区获悉,计划投资约3亿元人民币的“西部少林寺”项目已开始修建。当地官方称,该项目建成后将成为继河南嵩山少林寺、福建泉州少林寺、天津少林寺之后的国内第四大少林禅宗寺院。

  “西部少林寺”是在重庆江津区中山古镇的双峰寺旧址上进行修建的,计划于2013年建成。计划修建包含大雄宝殿、藏经楼、祖师殿、地藏殿、观音殿、钟楼、鼓楼、佛学院宿舍、佛学院教室等寺院建筑。

  福建投资方称,重庆江津方面此前已多次前往泉州少林寺“取经”。“西部少林寺”将依托泉州少林寺,并充分挖掘其作为中国少林寺宗教、武术发祥地的资源。其整体建筑风格将融合闽南建筑和西南建筑的特色,让闽南的红砖琉璃瓦和西南的青砖鄢瓦互相映衬。

  据泉州当地媒体报道,泉州少林寺方丈释常定已为“西部少林寺”奠基做法事。项目建成后,泉州少林寺还将派驻僧众进行事务管理。

  除此之外,“西部少林寺”项目建成后,还将进行迎请佛骨舍利、引进少林寺佛教文化品牌等文化活动。届时,游客既可以在寺庙内参禅礼佛,还能欣赏少林僧人带来的五祖拳、太祖拳、白鹤拳、五梅花拳等南拳功夫。(记者 孟幻)