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中国武術雑記帳 by zigzagmax

当世中国武術事情、中国武術史、体育史やその周辺に関する極私的備忘録・妄想と頭の体操 ※2015年2月、はてなダイアリーより移行

陳崢『太極拳の源流を求めて −十三勢套路の発見−』

李自力老師の本とともに地元図書館で発見。

河南省博愛県の李氏家譜など、最新の研究動向も視野にいれつつ、太極拳の起源に迫ろうとした、かなり野心的な研究で、史料の読み方など、なるほどと思う部分もあるのだけれど、ところどころ、結論だけが示されるので、議論についてゆけなくなるところがある。

たとえば、「十三勢は33(重複の動作を除いて)の動作から編成されており、すべて長拳の技です。」(P.38 第1章のまとめ)とあるけれど、なぜそれが長拳の動作だといえるのか、よくわからない。
「当然ながら十三勢あるいは太極拳専用の動作はなかったため、すべての動作は長拳から“借りてきた”のです」(P.16)とあり、P.66からP.68あたりでは、紅拳,太祖長拳の動作名称との共通性が語られる。しかし、紅拳や太祖長拳のどういった拳譜なり歴史的資料と類似性があるのか、具体的に示されないので、この説明はいまひとつ説得力を欠く。

同じことは、筆者が「復元」した十三勢についてもいえることで、「十三勢套路を復元するには膨大な史料が必要でしたが、これらの史料を探すのにはとても時間がかかり、また、套路と史料が一致するまで繰り返し検証しなければなりませんでした。したがって十三勢套路の形が見えるまでには、3年以上の月日が費やされました。」(P.24)とあるけれど、套路と史料の検証をどのように行ったのか、その検証のプロセスはよくわからない。わかるのは、筆者の「確信」、「驚き」と「興奮」だけである。とりわけ、前書き部分では、その興奮が率直に示されている。(唯一、套路の検証にあたって、楊澄甫の弟子の一人である崔毅士に師事した劉高明の演練を参考にしたことがP.97に示されている。)

筆者としては、「検証」のプロセスをいちいち示すよりも、筆者の「復元」した十三勢套路の論理的な整合性、完全性が最大の証拠だといいたいのかもしれないけれど、太極拳論や易学の知識もない自分には、そのことについては判断のしようもない。

筆者によると、一般に武禹襄によって創られたとされている太極拳十三勢は、陳王廷の創編以前から存在しており(ベースになっている理論からして、宋代まで遡れるという)、「河南省陳家溝ルートと河北省永年武禹襄ルート」に分かれて変遷していった(P.76)。しかし、このことがいえるためには、陳家溝にも、十三勢が残っていなければならないはずなのだけれど、陳家溝において十三勢は、陳長興が楊禄禅に教えたあと、失伝してしまったのだという。

「陳王廷が陳式太極拳を創編してから、おそらく十一代目の陳長興までの百年余の間は、太極拳十三勢(引用者中:陳王廷と、河南省博愛県唐村の李岩の創編による)と陳式老架(引用者注:陳王廷の創編による)は同時に伝承されていきましたが、陳長興が太極拳十三勢を楊禄禅に伝えたあと、太極拳十三勢は陳家溝で絶えてしまい、老架が陳家溝を代表する拳術として世間に知られるようになった」(P.73-74)。

この推論は、率直にいってかなり強引で、都合がよすぎると思う。

ともあれ、太極図についての考察から、早期の太極拳は「易」の原理に基づいており、「十三勢という套路は、老子の「無極」とは関係ないと私は考えています」(P.27)といったあたりは、説得力がある。
太極図の見方については、とても勉強になった。

太極拳の源流を求めて―十三勢套路の発見

太極拳の源流を求めて―十三勢套路の発見